予測が難しい「線状降水帯」の的中割合は?地球温暖化でますます甚大化する豪雨被害にどう備えればいいのか

AI要約

今年の梅雨入りは平年より遅く、線状降水帯による大雨が発生しやすい時期である。気象庁が警戒を呼びかけたが、予測の的中率は低かった。

線状降水帯は数時間にわたって停滞し、大雨をもたらす現象である。その発生メカニズムには暖かく湿った空気の流入が重要である。

線状降水帯は、積乱雲が一列になって発生するため、通常の積乱雲よりも長時間大雨をもたらす特徴がある。

 (篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト)

 今年は平年より遅い梅雨入りとなった。毎年梅雨入りのころから、各地で「線状降水帯」の発生による大雨が起こりやすくなる。

 気象庁は5月27~28日に九州南部、奄美、四国、東海に、また6月17~18日に九州南部、四国に、さらに6月20~21日に九州南部に、線状降水帯への警戒を呼びかけた。だが、このうち実際に発生したのは、6月21日の鹿児島県のみだった。

 6月27~28日には、九州北部と山口県に線状降水帯が発生する恐れがあるとして警戒を呼びかけたものの、対象地域では線状降水帯は発生しなかった。一方、28日には、予測していなかった静岡県で線状降水帯が発生し、これを見逃す形となった。

 どうやら線状降水帯の予測は難しいようだ。今回は線状降水帯の予測について見ていきたい。

 >>【表】2023年の線状降水帯予測結果。果たして的中率は? 

■ 「線状降水帯」の定義と発生メカニズム

 線状降水帯は、気象の世界では数十年前から研究対象となっている。ただし、その定義は研究者によってさまざまで統一されていない。気象庁の一般向け説明資料を見ると、次のように定義されている。

 〈線状降水帯は、次々と発生した積乱雲により、線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することで、大雨をもたらすもの。線状降水帯が発生すると、災害の危険性が高くなります〉

 線状降水帯の発生メカニズムについては、以下のように記されている。

 (1) およそ高度1km以下の低層に暖かく湿った空気の流入が持続

(2) 前線や地形などの影響で空気が持ち上がり雲が発生

(3) 大気の状態が不安定な中で積乱雲が発達

(4) 上空の強い風により積乱雲が風下に移動して一列に並ぶ

 ここでポイントとなるのは、まず(1)の暖かく湿った空気の流入だ。暖かく湿った空気は上昇しやすく、(2)の前線などの影響で雲が発生し、(3)の積乱雲に発達する──。ここまでは、普通の積乱雲だが、問題はここからだ。

 (4)で上空の風により、できた積乱雲が風下に流される。そして、同じ場所にまた別の積乱雲が発生する。つまり積乱雲ができては流され、できては流され……という具合に次々と発生して一列に並ぶ。

 普通、1つの積乱雲は、雲が発達する「成長期」、雨を降らせる「成熟期」、上昇気流がなくなり雲が消滅に向かう「減衰期」をたどる。強い雨を降らせる成熟期は15~30分ほどとされる。ところが、線状降水帯は成熟期の積乱雲が列をなしていて、同じ場所を次々に通過するため、大雨をもたらすこととなる。