【年間6万人が見学】生活の当たり前を支え、社会構造の変革を目指す産廃処理企業の挑戦

AI要約

環境省の調査によれば、一般廃棄物と産業廃棄物の量について述べる。

産業廃棄物の中間処理業を営む石坂産業を訪れ、リサイクル工場の様子を描写。

石坂産業の社長である石坂典子さんの哲学やビジョンについて紹介。

【年間6万人が見学】生活の当たり前を支え、社会構造の変革を目指す産廃処理企業の挑戦

 環境省の最新の調査によれば、家庭などから排出される一般廃棄物が年間約4000万トンなのに対し、工場や事業所から出される産業廃棄物は約3億7000万トンに上る。

 6月上旬、小誌記者は産業廃棄物の中間処理業を営む石坂産業(埼玉県三芳町)を訪れた。工場に足を踏み入れると、建物などの解体に伴う鉄筋コンクリートや金属くず、木くずなど、あらゆるものがひっきりなしに運び込まれ、大型重機や人間の手によって選別される光景が目に飛び込んできた。

 ごみの量、種類は想像以上だ。布団、畳、ベッド、椅子などもある。まさに、私たちの日常の〝裏側〟の現場である。

 「幼い頃、私自身も周囲から『捨て場の娘』として見られ、この業界の社会的地位の低さを痛感してきました。ですが、20代になって、初めて現場を見た時に感じたんです。『こういうことをしてくれる人がいるから、今の社会が成り立っているんだ』と」

 言葉をかみしめながらこう語るのは、同社の社長を務める石坂典子さん。2002年、父・好男さんの跡を継いだ2代目である。

 「ごみを捨てる人も、それを処理する人も、同じ社会に生きているのに『処理しなかったらどうなるか』を想像できる人は少ないのが現実ではないでしょうか。『良樹細根』という言葉がありますが、大樹に育つには広く、深く、細かく根を張る必要があります。私たちは見えないところで当たり前を支える『根っこ』の現場なのです」

 昨年には、約6万人が同社の施設に足を運んだという。異例の人数といえる。なぜこんなにも人が訪れるのか。

 「現場を見てもらえば、何にどれだけの手間暇がかかっているか一目瞭然です。見えにくい仕事だからこそ、『現場で働く人』と『恩恵を受ける人』をつなぐことで、一人でも多くの人に相手の気持ちや立場に立って考えるきっかけをつくりたかった。社員の中には『見られたくない』『見せ物じゃない』と反対する人もいました。

 それでも、私には社員がいい仕事をしているという自信がありました。同時に、見学者の反応や感想を社員が目にすることで、自分たちの仕事に誇りを持ってほしいと考えたのです」

 2億円を投じて建設した見学通路は08年に完成した。その壁面は、感謝や激励を伝える見学者からの直筆メッセージで埋め尽くされている。

 98%もの減量化・再資源化率を達成する同社の工場見学には、学生の社会科見学や企業研修などで年間約5000人が訪れるほか、世界各地から政治家や経営者らも視察に来るという。

 石坂産業が「見せている」のは工場だけにとどまらない。東京ドーム約4個分に及ぶ同社の管理敷地面積のうち、工場はわずか2割にすぎない。残りの8割は緑地、里山である。