【西田亮介が語る】なぜ、日本の知的生産性はこれほどまでに低いのか?修士・博士の少なさと無関係ではないのでは

AI要約

日本の知的生産性の低さについて、大学ランキングや博士取得者数を通じて問題提起。

日本の大学のランキングが低いことや修士・博士取得者数が先進国に比べて低いことが指摘されている。

この状況から、日本の高度人材の知的生産のクオリティが低い可能性について懸念されている。

 社会学者の西田亮介氏と経済学者の安田洋祐氏が、「日本の未来は本当に大丈夫か」をテーマに対談するシリーズ。前回の連載では「日本の「政治」大丈夫なんですか?」をテーマに裏金事件をめぐる諸問題を論じた。今回のテーマは「日本の「教育」大丈夫なんですか?」。日本の知的生産性の低さを嘆く西田氏の問題提起に対し、安田氏は加熱する中学受験競争の「虚しさ」を経済学の視点から分析する。第1回は西田氏による問題提起。(JBpress)

 (*)本稿は『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議 経済学×社会学で社会課題を解決する』(西田 亮介・安田 洋祐著、日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

■ 下がる日本の知的生産のクオリティ

 前回ぼくは、政治を取り巻く状況について一貫して「日本は本当に大丈夫なのか」というスタンスで安田さんに問いを投げかけてきました。随所で「日本の社会が壊れかけている」という危機感を覚えているからです。

 「日本は大丈夫か」ともっとも強く感じる分野の1つが、ぼくも深く関わってきた教育です。「日本の教育は大丈夫か?」と言った場合に、わかりやすく危機感を覚えるのは、知的なものが尊重されず、それらを磨く規範が弱まり、各種ランキングも低下を続ける日本の現状です。

 定期的に「世界大学ランキング」で日本の大学のランクイン数がベスト10圏外になってしまったとか、東京大学でさえも40位前後ということが話題になります。

■ 単位人口あたりの博士の数で他の先進国に負けている

 ぼくの出身の慶應義塾大学もTimes Higher Education のアジアランキングで300位くらい。世界ではなく、アジアで、です。大学院の規模が小さく大学院生が少ない私学は全般的にランキングが低いのみならず、少子化の時代に海外からも学生を集める必然性が高くなっている現状を鑑みると、この沈没具合は心配です。

 日本の学部学士の取得者は人口当たりでベンチマークとしている欧米の大学とそんなに変わりません。OECDの平均をやや下回る程度です。

 しかし、修士や博士になると、人口当たりの取得者がガクッと減ります。中国の都市部とあまり変わらないくらいになります。中国の都市部とあまり変わらない率ということは、中国は人口が日本の10倍なので、毎年輩出している修士の数でいうと負けています。トップの伸び悩みと、同時に裾野が広がっていない可能性を推論することができます。

 博士の単位人口当たりの取得者数は中国より日本のほうが若干上回っているのですが、それでも欧州やアメリカ、いわゆる先進国のベンチマークと比較すると格段に低いのです。

 このことが示唆するのは、日本では特に高度人材とみなされている人たちの知的生産のクオリティが低いのではないかという疑問です。