高齢者がコンビニ店員にキレる本当の理由

AI要約

中高年層が周囲に迷惑をかける「老害」行動について、高齢者が店員に激怒する理由を例に挙げながら解説。

老化による身体の変化が原因で、高齢者が正義感の暴走や行動過剰につながる可能性がある。

加齢による感覚の低下や物を持つ力の減少が、高齢者の行動に影響を与えていることが考察されている。

高齢者がコンビニ店員にキレる本当の理由

 些細なことでイライラしたり、空気が読めずにトンデモ発言をしたり、武勇伝を何度も繰り返したり。そうした言動で周囲に迷惑を掛ける中高年層は、たとえ過去に仕事で成功していても、若者たちから「老害」だと認定されてしまいます。ですが、もちろん本人たちは悪気があって老害っぽい言動をしているわけではありません。では、なぜ「やらかす」のでしょうか。医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)から抜粋して、その答えをお届けします。今回のテーマは「高齢者が店員に激怒する理由」について。

● 正義感の大暴走を止められない「老害」

 私がよく利用するコンビニには、レジが左右に2つ並んで設置されています。混雑時には、レジの間にお客さんが一列に並び、最前列の人が空いたほうのレジに進んで会計を済ませるシステムです。

 その日は混在する時間帯で、私が会計待ちの行列に並んだときはけっこうな長さになっていました。時間帯が時間帯なのでやむを得ないと思っていましたが、それにしても列がなかなか進みません。

 前のほうに目をやると、右側のレジで高齢女性が店員さんに向かって何やらまくしたてています。「あなたが悪い」「あんな乱暴な渡し方はない」「声が小さい」「謝り方がなっていない」といった言葉が聞こえてきました。

 

 どうやら、お釣りを受け取る際に小銭を床にバラバラと落としてしまったようなのです。店員さんは、アルバイト学生とおぼしき若い女性。何度も謝っていますが、この高齢女性の勢いは止まりません。大声でずっと同じことをくり返しています。

 当然、会計待ちの行列は伸びるばかり。列に並んでいるお客さんたちのイライラも、どんどん募っていきます。

 私はこの高齢女性の行動を見て、「仕方がないのかな」と思いつつ、第三者がこの騒動に加わって、さらにやっかいな状況にならないかと心配になりました。

● なぜ老害化が進むのか 店員さんにほとんど落ち度はないかもしれない

 この高齢女性を仮にTさんとしましょう。大声でまくしたてることの是非はさておき、もしかしたら本当に店員さんのお釣りの渡し方が乱暴だったかもしれないので、Tさんのほうが悪いと決めつけることはできません。

 いいがかりや理不尽なクレームではなく、実際にあった店員さんのミスを指摘している可能性があります。

 その一方で、店員さんにほとんど落ち度はなく、ていねいにお釣りを渡したにもかかわらず、Tさんが落としてしまった可能性も否定できないでしょう。

 というより、おそらくこちらが事実という公算が大きいと思います。

 なぜなら、次のような理由が考えられるからです。

 人間は50代になると手に持っている物の感覚が弱まり、70代からその傾向が顕著になります。すると、物を落としやすくなるのです(※1)。

 

 また、65歳以上になると手先の感覚は若いころの半分になり、物を持つ力は30%減少するという報告もあります(※2)。

 つまりTさんは、加齢による触覚の変化により「お釣りを乱暴に渡された」と感じ、そのうえで物を持つ力が落ちてきているので、うまく小銭をつかめず下に落としてしまったかもしれないのです。

 そして、その後の店員さんの謝り方や声のボリュームに対して文句を言っているのは、Tさんの聴力に起因すると考えられます。

 加齢にともなう聴力の衰えも否めません。じつは70代で半分近く、80代以上では70%以上の人が難聴になることが研究でわかっています(※3)。

 この店員さんは若い女性なので、真摯に対応していても、Tさんは「声が小さくて誠意が感じられない」と受け取ってしまったのかもしれません。

 このように、Tさんがお釣りの渡され方を乱暴に感じるのも、小銭を落としてしまうのも、店員さんの声が小さく聞こえて誠意がないと感じるのも、その背景に加齢による身体変化があることは論をまたないでしょう。

 無自覚のうちに、老害力はどんどんアップしていってしまっているのです。

 しかしいずれにせよ、小銭を落としてしまったあとの対応はやりすぎです。周囲の人たち(ほかのお客さん)への配慮が、著しく欠けています。こういう行動をくり返していたらいつの間にか「社会の壁」ができ、その厚みはどんどん増していくことになるでしょう。