「最近、味が薄いぞ」妻の料理に醤油をドバドバかける人が見落としている「危険なサイン」

AI要約
高齢男性が家族にわがままを言う理由として、味覚の変化があることが挙げられる。加齢に伴い味覚が変化し、濃い味付けを好む傾向がある。これに気づかずに味が薄いと感じ、奥さんに不満をぶつける行動が増える。しかし、奥さんにとっては辛い思いをさせられることになり、小さなバトルが家族の壁を作り出す。
「最近、味が薄いぞ」妻の料理に醤油をドバドバかける人が見落としている「危険なサイン」

 些細なことでイライラしたり、空気が読めずにトンデモ発言をしたり、武勇伝を何度も繰り返したり。そうした言動で周囲に迷惑を掛ける中高年層は、たとえ過去に仕事で成功していても、若者たちから「老害」だと認定されてしまいます。ですが、もちろん本人たちは悪気があって老害っぽい言動をしているわけではありません。では、なぜ「やらかす」のでしょうか。医学博士・平松類氏の著書『「老害の人」にならないコツ』(アスコム)から抜粋して、その答えをお届けします。今回のテーマは「味覚の変化」について。

● 長年連れ添った伴侶を困らせる身勝手系の「老害」

 ある高齢女性Aさんから、以前お聞きした話です。

 Aさんのご主人はいわゆる昭和の「企業戦士」であり「モーレツ社員」とのこと。本当によく働く人で、しっかり稼いで家庭を支えてくれたそうです。その点には、Aさんも心から感謝していました。だから、多少のわがままは受け入れてきたと。

 でも、定年を迎え、嘱託の期間も終え、完全にリタイアしたあと、そのわがままぶりが際立ってきて、だんだん付き合いきれなくなってきたといいます。

 「すぐに機嫌が悪くなり、文句を言ってくる。反論をすると怒る。ちょっと突き放すと拗(す)ねる。しばらく放っておくと、完全にふてくされて口も利(き)かなくなる。最近はこのくり返しばかりです。最終的に私が折れない限り、雰囲気が改善することはありません」

 以前からうるさいところはあったものの、Aさんが一生懸命作った料理にも遠慮なくけちをつけてきて、最近は「味が薄い」と言って醤油をドバドバかけることも増えたそうです。

 ご主人が現役で働いていた時代は、一緒に食事をするのは週に1~2回だったのでそれくらいは我慢できたようですが、今は毎日ほぼ3食一緒……。もういいかげん、限界を迎えそうということでした。

● なぜ老害化が進むのか、味付けが薄く感じるのは料理のせいではない

 Aさんのご主人のように、家庭内で、とくに奥さんに対して、わがままを言う男性は多くいらっしゃいます。

 その根底にあるのは、甘えと間違った愛情表現です。

 高齢者に限った話ではなく、「家族だから言える」「厳しく言うのは信頼関係があるから」「愛のない他人にこんな態度はとらない」という考えを持って家族に強く接している人は多いです。

 それが年を重ねるにつれ、「それをできるのが親しさの証」と思う傾向が強まるように感じます。

 でも、言われている側が同じように感じているとは限りません。むしろ、そうとらえてはいなかったり、それを迷惑に感じたりしている家族のほうが多いのではないでしょうか。

 料理の味が薄いと言って醤油をドバドバかけるのは、たんにわがままであるのに加え、別の理由も考えられます。

 それは、加齢にともなう味覚の変化です。じつは人間の味覚は、60代から変わってきて、味付けの好みが次第に濃くなることがわかっています(※1)。舌にある「味蕾(みらい)」という細胞の生えかわりが遅くなるのも、味覚が変化する理由のひとつです(※2)。

 そんな自覚のないAさんのご主人は、実際に味が薄いと感じ、「思ったことを素直に言えるほどの信頼関係を築けている」と信じて疑わない奥さんが相手だからこそ、その不満をストレートにぶつけているのでしょう。

 ただし、一生懸命作った料理に対して文句を言われた奥さんからしたら、たまったものではありません。

 カチンとくるのは当然で、いくらご主人にこれまでの感謝の念を抱いていたとしても、「そうかしら? そんなことはないと思うけど」程度の反論はしたくなるものです。

 ここでご主人が「ごめん、言いすぎたよ」と言えればいいのですが、そういうわけにはいかないですよね。だからこういう小さなバトルの積み重ねが、「家族の壁」をつくっていってしまうことになるのです。