「なぜ日本人は死ぬまで働き続けてしまうのか」…日本社会に潜む「歪みの正体」

AI要約

過労自死が社会問題となっている日本において、その背景には複数の要因が複雑に絡み合っている。

日本以外の国でも過労自死が問題視されており、例えばアメリカでは職場での自殺が増加傾向にある。

世界各国で過労自死や労働環境が社会問題として取り上げられている。

「なぜ日本人は死ぬまで働き続けてしまうのか」…日本社会に潜む「歪みの正体」

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1990年代以降の日本社会で広く認識されるようになった過労自死(過労自殺)。

2019年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」による残業時間の上限制限や有給休暇の消化義務などで少しずつ職場環境が改善されつつあるが、働きすぎによる自死事件はたびたびメディアで報じられる。

以前よりも労働環境は整備されてはいるものの、なぜ過労自死が頻発してしまうのだろうか。

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 前編記事『働きすぎだけが原因ではない…「過労自死」のヤバすぎる実態と「発生メカニズム」』に続き、過労自死が引き起こされる日本社会の構造に迫る。

 長時間労働を強いられながら、なぜ体力的にも精神的にもきつい仕事を辞められず自死に至るまで働き続けなければならないケースが続出するのだろうか。

 過労自死者をとりまく状況や構造について、常磐大学人間科学部准教授の小森田龍生氏(自殺予防学)が解説する。

 「以前には、遺書に『会社に申し訳ない』などの文言が記されることが珍しくありませんでしたが、今は時代も変わり、会社への忠誠心は弱まりつつあるように感じます。それよりも大きな3つの要因が複雑に作用しているのです。

 1つ目は、仕事を途中で投げ出せないという責任感や、仕事自体への愛着などの『仕事倫理』。

 2つ目は、『精神疾患に伴う心理的視野狭窄』。うつ病や適応障害などの精神疾患にかかってしまうと自分の周囲の状況が見えづらく、合理的な判断がしづらくなります。

 3つ目は、特に強調したいのですが『経済的不安』です。転職市場で流動性が高まってきているとはいえ、そもそも転職できるのか、転職後の収入不安などが大きく影響します。さらに、家族がいて自分が稼ぎ手の場合、仕事を辞めることのハードルはいっそう高くなります」(小森田氏、以下同)

 過労死は、WHOでも報告があるように海外でも社会問題として認知されている。一方、過労自死について海外ではどう捉えられているのだろうか。

 「たとえば、G7各国の中でも自死死亡率が高いフランスでは2002年に世界で初めてモラルハラスメントに関する法規が策定され、モラハラが刑事罰の対象となることが明示されました。

 しかし、2008年2月~2009年9月の約1年半の間に通信最大手のフランステレコムで従業員の自死者数が23人にも上り社会問題に発展しました。2019年にはパリ郊外にある学校の校長が過労自死したことを受けて、大勢の教員が抗議デモを行うなどの騒動も起きており、たびたび社会の注目を集めています」

 G7各国の自死死亡率が最も高いのは日本だが、その次に高いアメリカでも職場での自殺は、2000年代初頭から劇的に増加し、2005年には180件が報告された。

 2019年には307件と過去最高となり、日本ほどの社会問題になっているのかは不明だが、決して少なくない数字といえるだろう。