日韓レーダー照射問題「ぎりぎりの交渉」で決着 その背景は―

AI要約

木原防衛相と韓国側が「レーダー照射問題」への再発防止策に合意したことで、安全保障環境の中での日韓連携強化が実を結ぶ。

問題は2018年の日本海での韓国の火器管制レーダー照射事件から始まり、事実関係の認識に違いがありながらも、再発防止策を策定することで決着がついた。

会談では細部の文言にこだわりながら、再発防止策については合意。一方で、事実関係には触れず問題の解決を優先させる形で交渉が進められた。

日韓レーダー照射問題「ぎりぎりの交渉」で決着 その背景は―

今月1日、木原防衛相はシンガポールで行われた日韓防衛相会談で、韓国側と「レーダー照射問題」への再発防止策に合意した。照射の有無など事実関係の認識について一致しないまま、再発防止策を策定することで区切りをつけることになったこの問題。北朝鮮、中国と、日本の安全保障環境が厳しさを増す中、韓国との連携強化という「実を取った」形だ。

「レーダー照射問題」は2018年12月、能登半島沖の日本海で、韓国軍の艦艇が警戒監視中の海上自衛隊の哨戒機に、射撃の照準に使う「火器管制レーダー」を照射したとされる問題だ。

自衛隊関係者によれば、レーダーの照射は「引き金に手をかけて銃を相手の頭に突きつけるようなもの。相手が引き金を引けば、対応する武器を持たない哨戒機なら撃墜されるしかない」行為だという。さらに、相手の韓国は朝鮮戦争の休戦中で「照射へのハードルはおそらく自衛隊より軽い。搭乗員は死を覚悟しただろう」と言う。

日本政府は抗議するも、韓国側は照射の事実そのものを否定。両国の主張は平行線をたどり、事実関係の確認のための実務者協議は2019年1月に打ち切りに。その後、昨年6月の日韓防衛相会談で、再発防止策とりまとめに向けた協議を加速することで一致していた。

今回、会談の開催が報道陣に知らされたのは、当日になってから。会談開始の10分近く前まで事務方の間での議論は続いたという。会談では、双方の艦艇・航空機間の通信手続きの要領などを含んだ再発防止策を確認した上で、自衛隊と韓国軍のハイレベル交流などを再開することで一致。一方で、事実関係については触れず、「棚上げ」となった。昨今の安全保障環境を踏まえ、問題の解決を優先させた形である。

ある防衛省幹部は、最後まで焦点になったのは細部の「文言」だったとし、「会談後に開かれる大臣会見の冒頭発言はおろか、想定問答まで、韓国側と確認した」と明かす。特に「再発防止策」と明言することや、日本の事実関係への認識が変わっていないことなど、「会見での踏み込んだ発言」は「相手にも立場がある中」での、ぎりぎりの交渉の中で決着したものだという。その上で「会談終盤に大きな拍手が湧いた。それが答え。互いに、ちょうど49対49のところで落ち着いたのではないか」と、おおむね高く評価する。交渉に携わった別の幹部も「自衛隊への危険が続く状況に決着がついた。よくやったということだ」と話していた。

一方で、現場の隊員の心境は複雑だ。ある海上自衛隊員は「事実関係を認めない国と、本当に信頼関係を築いていけるのか」と疑問視する。

4日に開かれた会見で、海自トップの酒井海上幕僚長は「事実認定について矛盾しているというのは事実」と指摘しながらも、「そこにこだわっていては、現在刻々と変化する情勢に遅れてしまう」と述べ、再発防止策への合意による日韓防衛交流の再開を「大きな進展」と評価した。その上で「懸念や不安を覚える隊員がいるならば、指揮系統を通じて、しっかりと説明、または指導していく」と話し、「事実関係の合意なしに信頼関係を築けるのか」という問いには「築いていくつもりです」と強調した。