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「書き上げるまで、殺されないで下さいね」…無頼派を装う大藪春彦賞作家に大ヒットを狙う担当編集者が手を染めた「鬼畜の所業」【「鶯谷」第二十四話#1】
梅雨前線が活発化している中、雨の日が増えている。
作家は杖を頼りに雨の日に仕事場に向かうが、風と強い雨に苦しむ。
締め切りに追われながらも、金銭的な問題や後悔も抱えながら労働する様子が描かれる。
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梅雨前線が活発化しているからか、雨の日が増えている。杖を頼りに歩く作家にとって、雨はいささか厄介だ。しかし、締め切りは容赦なくやってくる。
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その朝は大雨だった。
半端な雨ではない。
今年いちばんの降水量という予報に仕事場への出勤を諦めていた。
いつものように午前3時過ぎに目が覚めて外の様子を見に出た。
(これならギリ出勤できるな)
と、考えた。
注文を受けている作品の締め切りは一週間先だった。
土日祝日も休まず執筆している私だ。
その代わりに雨の日は休むことにしている。
キャップを被りパーカーを羽織る。
それで雨を凌いでいるのは、杖に頼る身で傘を差すと両手が塞がり危ないからだ。
少々の雨なら浅草の仕事場に出勤する。
その朝もそれでいけると判断した。
甘かった。
雨だけでなく風も強かった。
横殴りの雨だった。
浅草の仕事場に着いた時にはキャップもパーカーもびしょ濡れになっていた。
(ウインドブレーカーくらい買えよ)
そう思われるであろうか?
違うのだ。
そんな金さえ惜しまなくてはらないのだ。
とりあえず仕事場の風呂に入って温まった。
びしょ濡れになったキャップとパーカーは針金のハンガーで乾すことにした。
文庫の印税で電気料金の滞納を解消していたので、エアコンをマックスの30℃に設定した。
(そんなことをしているから水道光熱費がかさむんだよ)
ご指摘は理解できる。
しかしこれはある種の負のスパイラルなのだ。
金のない暮らしを送っていると緻密な節約などできなくなる。
むしろダメージを覚えたのは、パーカーのポケットに仕舞っていた煙草がグチャグチャになっていたことだった。
半分ほどしか入っていなかったが、新品を買えば600円の金が消えるのだ。
半分でいいから300円にまけてくれとはいえないだろう。
仕方なく仕事場の隣のコンビニで新しい煙草を買った。
手痛い出費だった。
(こんなことなら休めばよかった)
後悔した。
(寒い思いまでして仕事場に来てこれかよ)
怒りに近い感情さえ覚えたが、その矛先を向ける相手がいない。
締め切りに駆られて仕事場に来た自分が悪いのだ。
それだけではない。