【毎日書評】問題解決のヒント:「思考実験」でアイデア発想力と論理的思考力を鍛える

AI要約

テクノロジーが飛躍的に発展し、自分の頭で考える力が重要だと指摘されている。

思考実験を通じて、考え方や想像力を広げ、問題解決能力を養うことができる。

有名な科学者たちの思考実験を通じて、新しいアイデアや考え方を発展させることができる。

アインシュタインの自由落下のエレベーターを例に取り、加速度運動と重力の関係を考察する。

アリストテレスの考えや過去の出来事から仮説を立て、思考実験を行うことで科学的な発見を促進する。

物体の落下や重さに関する古代ギリシャの哲学者の説を紹介し、物理法則の検証に思考実験が有用であることを示す。

【毎日書評】問題解決のヒント:「思考実験」でアイデア発想力と論理的思考力を鍛える

テクノロジーが飛躍的に発展し、1年後の予測すら困難な時代を生きている私たちには、「自分の頭で考える力」が重要。逆にいえば、その力がないと、情報に振り回され、ルール通りにしか動けない、消極的な人間になってしまう──。

『頭がいい人の論理的思考が身につく! 大人の思考実験』(笠間リョウ 著、総合法令出版)の著者はそう指摘しています。興味深いのは、「自分の頭で考える力を高めるためのいちばんの近道は思考実験をすることだ」という考え方。

思考実験は基本的には、新しい技術や学説、考え方、今まで見落とされていた考えを「前提」として、ある「仮説」や「結論」を導き出すものです。

実際には設定できない条件を設けて、頭の中で推論を重ねて行く実験のことを思考実験といいます。(「はじめに」より)

とはいえ難しいものではなく、端的にいえば“考えるゲーム”だそう。つまり実際にものを使ったり、場所を変えたりするのではなく、想像力を使って新しいアイデアや考え方を見つける方法だということです。

思考実験をすることで、新しいアイデアを考えたり、問題の解決策を見つけたりすることができるようになります。これは、仕事や学校や日常生活で非常に役立ちます。

思考実験をすると、自分の考え方や想像力が広がるので、楽しみながら思考力を鍛えることができるはずです。(「はじめに」より)

そこで本書では、有名な科学者たちが行ったものからオリジナルなものまで、さまざまな思考実験を紹介しているのです。きょうは第3章「問題が解きたくなる思考実験」のなかから、2つをピックアップしてみることにしましょう。

地上300メートル、60階建てのビルの昇りエレベーターにあなたは乗りました。ところが59階に到達したところで、エレベーターが急に止まってしまいました。自分の手のひらには、オフィスに着いたら食べようと持っていたリンゴがあります。

すると、エレベーターを吊っているワイヤーが何らかの理由で切れてしまいました。

そして、あなたが乗っているエレベーターは落下を始めました。このとき、あなたが持っているリンゴはどのようになるでしょうか?(144ページより)

これは、アインシュタインの「自由落下のエレベーター」と呼ばれる思考実験。ニュートンの運動法則を念頭に置いた場合、リンゴと手のひらの位置関係は変わらないということになります。地球上にある物体は、落下し始めたときの一度速度が同じであれば、自分の手のひらにあるリンゴの位置は変化がないように見えます。

仮にエレベーターの壁が透明で、外から中の様子が見えたら、手に持っているリンゴやエレベーターの中にいるあなたも、同じ位置関係で落下しているように見えるはずです。

このとき、リンゴが手のひらから1センチ離れたまま、落下し続けたとしたら、リンゴは浮いた状態で見えるはずです。つまり、無重力状態になることができるというわけです。

このことから、加速度運動をするエレベーターの中では、重力は消えることから、重力と加速度運動は同じ(等価)なのではないかと考えられます。(145ページより)

ある仮説を証明するために思考実験をする場合には、過去の似たような出来事をイメージするのもよいそうです。アインシュタインも、屋根から瓦と同じ速度で落下する瓦職人を見たことからこの思考実験を思いついたのだといいます。

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは著書『自然学』の中で、物体の落下について、次のように述べています。

「石が落下するのは、石が本来、属するべき地上に戻ろうとしているからだ。また、落下速度が徐々に上がるのは、あたかも私たちが家に帰り着く頃には、早足になるがごとくである」

そして、自由落下(物体が空気や摩擦の抵抗を受けずに重力だけで落下すること)の速度は落下する物体の重さに比例すると言っています。(146ページより)

たとえば10キログラムの石と5キログラムの石があった場合、10キログラムの石が早く地上に落ちると経験則から考えたということです。(144ページより)