円安・インフレでも日銀が「今」政策変更しない謎、驚きの言及の数々

AI要約

5月10日に発表された金融政策決定会合における「主な意見」は、タカ派の意見が主流であり、個人消費や円安と原油高についての慎重な見解が示された。

個人消費は物価上昇により弱められているが、賃上げモメンタムの強さから将来的に回復する可能性があるとの見方が示された。

一方、円安と原油高による物価上昇リスクにも警戒が必要であり、インフレ率の上昇や価格転嫁の可能性に注意が促されている。

円安・インフレでも日銀が「今」政策変更しない謎、驚きの言及の数々

 5月10日に発表された金融政策決定会合における「主な意見」(4月25~26日開催分)は、かなりタカ派(金融引き締め支持)であった。4月26日の金融政策決定会合後の総裁会見がハト派(金融緩和支持)と受け止められ、円安が進行した経緯があるだけに、そこでの情報発信に修正を加えたかった意図も透けて見える。ただ、そうした事情を割り引いたとしても、日銀が市場関係者の平均的な想定を上回る速度で政策変更を議論している可能性が高い。その可能性を点検するために「主な意見」で注目すべき発言について、藤代氏が見解を示した。

 まずは個人消費についての言及を見てみよう。

 個人消費は物価上昇を受けて弱めであるが、足元の賃上げモメンタムの強さを踏まえると、先行き勢いを取り戻していくものと見ている。

 日銀が金融引き締めを躊躇(ためら)っている要因の1つに個人消費の停滞がある。日銀が算出する実質消費活動指数に目を向けると、1年近くも横ばいないしは微減となっており、お世辞にも消費が強いとは言えない。

 そうした中で、個人消費の先行きに明るい意見をあえて掲載したのは、夏場にかけて実質賃金がプラス転換すると見込まれる中、先行きは持ち直しに向かうという自信を示すことで、政策変更の地ならしをする意図があったのではないか。

 なお、物価が中央銀行の目標を上回って推移しているのは日本も米国も同様であるが、米国は個人消費の強さがインフレの根底にあるのに対して、日本はそうではない。景気の強さに悩む米連邦準備理事会(FRB)に対して、景気の弱さに悩む日銀といったところだろう。

 続いて、円安と原油高についての言及を見てみよう。 

 円安と原油高は、コストプッシュ要因の減衰という前提を弱めており、物価の上振れ方向のリスクにも注意が必要である。

 足元の円安と原油価格等の上昇が、輸入物価を通じて企業物価へ波及しつつある状況を鑑みると、賃上げに伴うサービス価格の高まりに加えて、現在伸び率が低下している財価格が底打ちして反転する可能性にも注意を払う必要がある。

 輸入物価上昇を起点としたコストプッシュや予想物価上昇率の上昇に伴うインフレ率上振れのリスクもあるため、今後、2022年以降に続く第2ラウンドの価格転嫁が生じるか、予断なく見極める必要がある。

 日銀が「第1の力」と表現する、輸入物価由来の物価上昇圧力が再度高まりつつある中、2024年度後半以降の物価見通しが上振れリスクに晒(さら)されていることを懸念していると見られる。

 なお、話は逸(そ)れるが、政府がデフレ脱却宣言を見送っているのは、物価高に不満を持つ国民感情を逆なでしてしまうことを恐れているからではないだろうか。物価上昇率に加え、春闘賃上げ率が大幅に高まるなど、政府にとって積年の課題であったデフレ脱却を実現したというのに、その成果を誇示しない(できない)のは何とも皮肉な現状だ。