社会保障拡充に協力的な財界と反発する労働組合

AI要約

社会保障の再分配目的は消費の平準化と保険的再分配であり、賃金システムの欠陥を補うために生まれた制度である。

消費の平準化や賃金のサブシステムについて考案された19世紀末のドイツ帝国の制度を取り上げ、その役割を解説する。

全世代型社会保障構築会議からの議論を通じて、再分配政策が持つ意味や社会保障の給付と負担のバランスの重要性が語られる。

社会保障拡充に協力的な財界と反発する労働組合

「社会保障は金持ちから貧困層への再分配にあらず」で論じたように、社会保障が行う再分配の主目的は「消費の平準化」と「保険的再分配」である。

 そして人が生きていくうえで直面する「支出の膨張」と「収入の途絶」という生活リスクに対応することを苦手とする賃金システムの欠陥を補うために、消費の平準化をはたす賃金のサブシステムとして、労使が、賃金比例で財源を折半で拠出する方法が、19世紀末にドイツ帝国で考案された。

 これは、私保険のアナロジーによって社会保険と呼ばれたが、この所得再分配制度がはたす役割の本質は、「支出の膨張」と「収入の途絶」に対応できない賃金のサブシステムであった。

■「消費の平準化」は総需要の下支えも

 昨年12月に、子ども・子育て支援金について議論していた全世代型社会保障構築会議の経過報告をするために経済財政諮問会議に出かけた。このとき、消費の平準化と賃金のサブシステムの話をしているので紹介しておこう。なお、この日は、消費の平準化を図るための賃金のサブシステムと経済政策との関係について話もしている。

◆2024年1月22日経済財政諮問会議議事録より

(新藤議員:内閣府特命担当大臣) 権丈先生は、社会保障制度は国民連帯に基づく再分配の仕組みであり、負担と呼ぶことに抵抗があるとおっしゃっているとお伺いした。また、再分配を通じて社会を安定させ、消費増を通じて経済成長に資するというお考えであることも伺っている。 経済成長と整合的に、社会保障の給付と負担のバランスを確保していく。全世代型社会保障という概念を打ち立てて、国民の理解をいただく。その点について、具体的にどうすればよいのか、御意見を頂戴したい。

(権丈全世代型社会保障構築会議構成員) 私自身は、提供体制の改革とか、医療保険の改革を恐らく日本で一番厳しく言っている人間だと思う。

そのうえで、再分配政策がどういう意味なのかという話を少しさせていただきたいのだが、10月のこども未来戦略会議で話をしたように、社会保障に必要とされる財源というのは、戦争で負けたときの賠償金とか、あるいは住専のときの不良債権への国民の負担とはまったく異なる。さらには、封建時代の五公五民の租税、年貢と、家計に再分配することがメインとなった福祉国家に必要となる財源を、同じ負担という言葉で呼ぶのには抵抗があるということをずっと言い続けている。