東電が賠償金の返済より「発電ゼロの原電支援」なぜ?

AI要約

東京電力が国からの賠償金を返済するために特別負担金を支払っているが、同時に原子力発電に多額の資金的協力をしており、国民の理解を得られるか疑問が残る。

特別負担金がゼロの年もある中、東京電力は原電に基本料金や前払い金を支払っており、その優先順位に疑問が生じている。

東京電力と原賠機構のやり取りを通じて、原電への支援を重視し続ける構図が続く中、課題が残る。

東電が賠償金の返済より「発電ゼロの原電支援」なぜ?

 原発事故を起こした東京電力は被害者へ賠償を行うため、国が国債を発行し、必要な資金を立て替えてもらっている。東電はその資金の国への返済(特別負担金)がゼロでも、原発が全基停止し発電ゼロの日本原子力発電に毎年、多額の「資金的協力」を行っている。果たして、それで国民の理解が得られるのだろうか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】

 2011年の東電福島第1原発事故を受け、政府は大手電力会社などと原子力損害賠償・廃炉等支援機構を設立した。被害者への賠償のため、国が国債を発行し、原賠機構が交付金として東電に必要な資金を提供している。

 東電が原賠機構から受け取った交付金は、東電を含む大手電力会社が一般負担金、さらに東電が特別負担金として、毎年、原賠機構を通じて国に返済することになっている。

 ◇特別負担金はゼロでも

 東電は22年度、原賠機構から5074億円の交付金を受けた。これは決算上、東電の特別利益となる。これに対して、東電が賠償などに支払った5295億円は特別損失となり、経常損益と合わせ東電は1236億円の最終赤字となった。

 東電が22年度に原賠機構を通じて国に返済した一般負担金は675億円、特別負担金はゼロだった。特別負担金は17年度から21年度まで400億円から700億円で推移していたが、22年度は最終赤字の影響でゼロとなった。

 しかし、東電は最終赤字に転落し、特別負担金がゼロとなった22年度も、原電に550億円の基本料金を支払っている。これとは別に東電は原電の東海第2原発の安全対策費として、22年度は約540億円を支払っている。これは「将来の電力料金の前払い」という名目だ。前払い金の合計は21~23年度で約1400億円となる。

 つまり東電は国が国債で立て替えた賠償金の返済(特別負担金)よりも、原電への支払いを優先させていることになる。

 ◇東電「意見する立場にない」

 どうしてなのか。発電ゼロの原電へ資金的協力を行うよりも、特別負担金(国への借金返済)を優先すべきではないのか。

 東電に尋ねると、「特別負担金の額は原子力損害賠償・廃炉等支援機構法で、当社の収支の状況に照らし、事業の円滑な運営の確保に支障が生じない限度において、できるだけ高額の負担を求めるものとされている。支払額は原賠機構の議決と大臣の認可を受け、当社に通知いただいたものだ。当社として意見する立場にない」との答えが返ってきた。

 要するに、東電が支払う特別負担金は、東電が決めるのではなく、原賠機構が東電の経営状況を見て、毎年、国に返済する額を決めるということだ。原賠機構によると、東電は毎年の利益から特別負担金を捻出しなくてはならないが、電力の安定供給や原子炉の運転などに支障がない範囲で最大限の負担を求めているという。

 そうだとしても、17年度から21年度まで400億円から700億円だった東電の特別負担金は、22年度に突然ゼロとなり、23年度は2300億円に急増している。これだけ変動するのはどうしてなのか。

 原賠機構の担当者に尋ねると、「22年度は東電の経常損益と最終損益が赤字となることが見込まれることから、ゼロにした。特別負担金は毎年度の東電の収支を踏まえて決定しており、金額は一定でない」との説明だった。

 ◇「議論ある原子力だが前払いはあり得る」

 東電は特別負担金がゼロでも、原電に基本料金や前払い金を支払っている。結果的に特別負担金より原電への支援を優先していることについて、原賠機構はどう考えているのか。

 原賠機構は「東電は電力会社として電力供給の義務があり、電力をどこからか仕入れなくてはならない。基本料金などは、そのための費用だと理解している」と回答した。

 実際に原電の原発が稼働し、東電が電力の供給を受けているのであれば、その説明は理解できる。しかし、原電の原発は11年5月以降、ストップしたままだ。それでも「前払い」までして、資金援助する必要があるのか。それよりも特別負担金を少しでも多く支払うことが企業としての社会的責任でないのか。

 再度、原賠機構に尋ねたが、「初期投資が必要な場合、リスク分散で先にカネを支払い、将来モノを納めてもらうことは電力に限らず、よくある」「原子力に限らず、電力を安定的に調達しなければならないため、(東電の基本料金や前払い金は)やむを得ないと思う」との返事が返ってきた。

 筆者は「原電の東海第2原発も敦賀原発2号機も、動く見通しが立たないのに、原賠機構はいつまで東電から原電への資金的協力を認めるのか。それよりも特別負担金を増やすべきではないのか」と繰り返し尋ねた。

 すると、原賠機構は「ちょっと話に飛躍がある。もう少し正確に電力業界や市場を見た方がよい」「東電の原電への支払いと特別負担金をどうしてひも付けるのか、よくわからない」と、筆者の質問に疑問を呈した。

 筆者は「よくわからないと言われるのが、私から見ると、よくわからない」と答えるしかなかった。

 原賠機構は特別負担金よりも、東電が原電に基本料金や前払い金を優先的に支払うことを認めており、「たまたま将来的な前払いで、たまたま議論のある原子力だが、一般的に前払いすることはありうる」との立場を崩さなかった。

 東電は原発事故後、原賠機構から1兆円の出資を受け、現在も原賠機構が議決権の過半を握る大株主だ。政府の意向を反映する原賠機構の方針が変わらない限り、東電が特別負担金よりも原電への支援を優先する今の構図は変わりそうにない。そのツケは、東電の契約者の電力料金に反映されることになるだろう。