「もうええでしょう!」地面師みたいな人に急かされた時、絶対やってはいけないこと

AI要約

不動産取引での注意点と手口について解説。高圧的な不動産業者による急かしや、物件の構造的欠陥に関する体験談を通じて、焦らず落ち着いて情報収集を行う重要性を示唆。

部屋の間取りなど細かな点にも注意を払い、急いで決断する際のリスクを示唆。適切なタイミングでの機敏な行動が成功に繋がることを示唆。

良識を保ち、常に警戒心を持ちながら不動産取引を行うことが重要であることを強調。

「もうええでしょう!」地面師みたいな人に急かされた時、絶対やってはいけないこと

 三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第120回は不動産売買での「要注意」な手口を、実際の体験談とともにお伝えする。

● 急かす不動産業者「レア物件」の落とし穴

 主人公・財前孝史と藤田家の御曹司・慎司の三番勝負の第2戦は不動産対決。5000万円を元手に都内の不動産を翌日までに買い、どちらが良い物件か塚原為之介という大富豪が判定するという。説明を求めて食い下がる財前を尻目に慎司は札束をつかんで走り出す。

 Netflixのドラマ『地面師たち』の中でピエール瀧が演じる元司法書士の決め台詞「もうええでしょう!」がちょっとした流行語になっている。買い手側が詳細を確認しようとするたび、高圧的に追及を遮るセリフだ。

 詐欺でも通常の不動産取引でも、あんな高飛車な態度を取られることはない。あくまでドラマの演出なのだが、劇中でこの決め台詞がさほど違和感なく妙な説得力があるのは、買い手の焦りを売り手が見透かしているからだ。

 購入にせよ賃貸にせよ、不動産は大きな金額が動く取引だ。しかも多くの場合、相手はプロでこちらは経験不足の素人。そんな取引で一番避けるべきは焦ることだ。販売・仲介業者はあの手この手で「早く決めないと他者に物件が横取りされる」と匂わせてくる。真偽を見極めないと後悔する羽目になる。私の最近の経験談をシェアする。

 今の借家から引っ越しを検討していて、ほぼ条件通りの物件が見つかった。早速内見に行き「ここでいいかな」と好感触を得た。

 仲介業者は「現時点で3人の申込者がいる。オーナーは一両日中に決められないなら他の方に、と言っている」と急かしてきた。ありがちな手を……と思いつつ、かなりレアな物件だったので決めるなら早めに手を打とうと考えていた。

● 「変な間取り」の謎…サイトから消えた物件

 ところが間取り図と内見時に撮った動画を詳細に検討すると、キッチンが狭くて冷蔵庫が置けないことが判明した。部屋数も広さも十分なマンションになぜそんな欠陥が? 家族で「変な間取り」の謎解きが始まった。

 結論はリフォームの失敗。元々は広々としていたはずのキッチンを削り、2つ目のトイレと収納を追加したようだ。利便性を上げるつもりでキッチンの基本機能を損なった致命的なミスだった。私はお断りのメールに「この部屋には構造的欠陥があるのではないか」と書き添えた。

 断ったことも忘れて1カ月ほどたった頃。何気なくネットを検索していたら、当該物件がまだ賃貸サイトにさらされていた。あの時、私以外に2人の候補者がいたのか真偽は分からない。あるいはその2人も欠陥に気付いたのかもしれない。

 いずれにせよ、その仲介業者からはその後一度も連絡はない。当該物件は先ほど検索したらサイトから消えていた。入居者が冷蔵庫を持ち込んだ時点で頭を抱えていないか、気がかりだ。

● 「もうええでしょう」と「今だ!」の違い

 これと対照的だったのが十数年前のマンションの購入だ。「この地域で中古物件を買おう」と狙いを定め、2年ほど賃貸暮らしをしながらこまめに不動産情報の収集を続けた。「これは」と思った物件をいくつも内見し、少しでも違和感があれば見送った。

 そんなある日、「もう少し安ければ……」と目星をつけていた中古マンションが5%ほど値引きされたのを新聞のチラシで発見した。すぐ不動産屋に連絡してその日のうちに申し込み書類をそろえた。

 後日、同じ日に他の不動産仲介業者経由で別の申し込みがあり、業者同士がファクスを持ち寄って着信時間を比べた結果、30分差で私が優先権を得たと知った。

 「もうええでしょう!」と他人に背中を押されて焦ってはいけない。だが、自分の中で「今だ」という声が聞こえたら、機敏に動かないと好機を逃す。大事なのは常に警戒と情報収集、両方のアンテナを立てておくことだろう。