【アイデアを実現するための応援される技術(4)】共感と想像を呼び起こす言葉とは

AI要約

価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要なのが、新しいものを生み出すための具体的なアイデアである。

汎用的な言葉ではビジョンは伝わらず、具体的で表現力のある言葉の重要性が強調される。具体的な言葉がビジョンやアイデアに対して共感を生むことが示される。

言語化はロジカルなことだけでなく、相手の想像力を刺激することも重要であり、具体的な例やレトリック、日本語表現に注力することで、より強い共感を得られると述べられている。

【アイデアを実現するための応援される技術(4)】共感と想像を呼び起こす言葉とは

 価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

● 汎用的な言葉では、ビジョンは伝わらない

 1960年より少し前の話です。アメリカは「世界一、科学と技術が進化した国でなければならない」と表明しましたが、実体がなかなか追いついてくることはありませんでした。

 しかし、1962年9月12日、ジョン・F・ケネディは、“We choose to go to the Moon”(我々は月に行くことを選択した)と宣言しました。アメリカの科学技術は、そこから劇的に進化したと言われています。

 同じような例が日本にもあります。ソニーがトランジスタラジオを開発したときに、技術者たちに経営者が伝えたのは「世界一小さいラジオをつくれ」ではなく、「ポケットに入るラジオをつくれ」だったのです。

 この2つの事例から見えてくることは、同じ未来へのビジョンの表明であっても「言い方」によって、異なる作用をする、ということです。

 両者に共通するのは、「汎用的」な言葉を避けて「具体的」な言葉を使ったというところです。

 世界一、新しい、まだ見ぬ、かつてない……。つい使ってしまいそうな便利な言葉は、どんなものにも当てはまる「汎用的」なものです。

 しかし、それは、ビジョンとして使うと作用しない言葉でもあるのです。

 汎用的な言葉は、すべてを言い表せてはいる言葉です。

 しかし、言葉は、「正しく言い表して伝える」ことよりも「どう伝わるか」を意識することが大切になってきます。

 言葉を受け取った側の想像力が掻き立てられて、その未来にワクワクできるかは「具体の言葉」のところにコツがあります。

● 伝える相手の想像力をいかに掻き立てられるか

 抽象的で汎用的な言葉よりも、具体的な言葉がチカラを持つことがある、ということは、短歌など定型詩からも学ぶことができます。たとえば、次のような短歌は、いかがでしょうか。

 「駅前のおもちゃ屋さんが店を閉じわたしの町はえくぼを失う」(松井多絵子)

 私は、この限られた文字の情報から、次のような想像を掻き立てられます。

 急行、快速も止まらないような小さな駅。駅前からわずかに広がる商店街。全国どこにでもありそうなひとつの駅前から、唯一あったおもちゃ屋さんがなくなった。

 ネットショッピングや大型店舗があるから事足りている、と思っていた人でも、いざ閉店ということを知ると、なぜか寂しい気持ちになる。まるで、その町の大切なチャームポイントがなくなってしまうような、寂しい気持ちがこみ上げてくる。

 おもちゃ屋さんを「わたしの町のえくぼ」と表現したことで、なぜこんな気持ちになるのかという輪郭を描き出してくれています。

 言語化は、つい、ロジカルなことだけを重視しがちですが、伝える相手の想像力をいかに掻き立てられるかによって、伝わる「深度」が変わってきます。

 そういう意味でも、どんな具体例を持ってこられるか、ということや、レトリックや日本語表現にも注力すれば、そのビジョンやアイデアに対して、もっと強い共感を得ることができて、協力したくなる気持ちを強くすることができるのだと思います。

 (※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤安久(にとう・やすひさ)

株式会社Que 取締役

クリエイティブディレクター/コピーライター

1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。

2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。

2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。

2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。

2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。

受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。