中小M&Aで横行する悪質な買い手と仲介者…中小企業庁がガイドライン改定(小林佳樹)
中小企業庁が中小M&Aガイドラインの改定を発表。特に悪質な買い手企業の存在が問題視されている。
中小企業の経営者の高齢化や後継者不足により、M&A市場で経営権の譲渡が増加。悪質な買い手が跋扈している。
中小企業庁はガイドラインの改定を通じて、規制を強化し、悪質な行為を行う買い手企業や仲介者に対処する方針。
【経済ニュースの核心】
中小企業庁は8月30日、「中小M&Aガイドライン」を改定した。「不適切な譲り受け側の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者が実施する過剰な営業・広告等の課題に対応し、中小M&A市場における健全な環境整備と支援機関における支援の質の向上を図る」(中小企業庁)というのが改定の趣旨だが、特に問題視しているのは、悪質な買い手企業の存在だ。
「経営権を譲り受けても、経営はほとんど行わず、会社の資産を勝手に引き出し、従業員の給与や税金も未納のままドロンする悪質な買い手が跋扈している」(メガバンク幹部)というのだ。
中小企業は全国で300万社を超えるが、その多くは経営者の高齢化と後継者不足という問題を抱えている。とくに創業経営者にとっては、「会社はわが子のようなもの。経営を続けたいが、年齢の問題もあり、信頼できる後継者もいない場合、他社に売却することを選ばざるを得ない」(都内の中小企業経営者)という。
そうした経営者の切ない思いを踏みにじる買い手企業がいるのだ。「M&A市場でいま問題視されているルシアンホールディングスという投資会社もそのひとつ」(メガバンク幹部)という。朝日新聞の報道によれば、ルシアン社は、過去2年間で37社を買収し、悪質な行為を重ねてきたとされる。
■規制を強化
また、中小企業庁はガイドラインの改定を通じて、売り手と買い手の間に入っている仲介者に対して、買い手企業のコンプライアンスなどの調査を徹底し、売り手企業に十分に説明するよう義務付けたり、買い手企業を優遇するなど利益相反行為を禁止するなど規制を強化した。違反した仲介者は、国のM&A支援機関の登録を取り消し、社名を公表することも視野に入れている。
中小企業のM&Aは、メガバンクなど金融機関にとってもドル箱ともなっている。
「売り手企業、買い手企業の双方から相応の手数料を得られるほか、融資もセットで高い金利が得られる」(メガバンク幹部)ためだ。
それだけに悪質な買い手や仲介者が横行することで、市場がシュリンク(縮小)することが懸念されている。なかには仲介者が悪質な買い手と知った上で売り手に紹介するケースもあるとして、中小企業庁は注視している。
(小林佳樹/金融ジャーナリスト)