フォルクスワーゲンのドイツ工場閉鎖を単なる「自動車大手の不振」と見れば、将来を読み間違える

AI要約

ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが国内工場閉鎖を検討中であり、ドイツ経済が転換点に近づいている。

エネルギーコストの上昇や外国企業のドイツ離れなどが国内企業の減産や海外移転を引き起こしている。

ドイツの競争力の後れや自動車産業の不透明感も、経済に影響を及ぼしている。

フォルクスワーゲンのドイツ工場閉鎖を単なる「自動車大手の不振」と見れば、将来を読み間違える

ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが同国内の工場閉鎖を検討していることが判明し、世界中で話題を呼んでいる。

2023年11月の寄稿『世界第3位に躍り出るドイツ経済、実は日本と同じ凋落への道を歩んでいるのかも』で、筆者はドイツ経済の現況について以下のように論じた。

天然ガスの供給元だったロシアとの関係がウクライナ侵攻を機に悪化し、従来よりも高価で不安定なエネルギーの利用を強いられるようになったドイツでは、2021年後半以降、対内直接投資が著しく減少して純流出が目立つようになり、言わば「外国企業のドイツ離れ」が進んでいる。

足元で確認されているのは、外国企業がドイツを見限る形で対内直接投資が減少していくところまでで、国内企業が自国を見限る動きとしての対外直接投資の増加・加速にまでは統計上至っていない。

それでも、国内での経済活動が高コスト化し、政治によるその是正を期待できない状況が続けば、ドイツ企業も国外への脱出を考えるようになるのではないか。

対内直接投資の減少は2022年から23年にかけて急速に進み、下の【図表1】を見ると分かるように、過去に例を見ない純流出(=投資の引き上げ超過)を記録した。

そして、今回のフォルクスワーゲンの工場閉鎖は言い換えれば生産拠点の国外への脱出、すなわち対外直接投資の増加につながる動きであり、これを皮切りに一段と注目を集めることになるだろう。

筆者は先に触れた寄稿で次のようにも指摘した。

対外直接投資は、買い戻し条件の付かない単独の自国通貨売りフローを意味し、海外での現地生産・現地販売が徹底されていけば、国内の製造拠点は当然薄くなる。日本では結果として円安が進み、輸出数量が増えなくなった。

ドイツは事情がやや異なり、割安通貨としてのユーロ、東欧から流れ込んでくる安価で良質な労働力、分散された地方経済の厚みなど、日本にはない生産拠点としての優位性がある。

ドイツは日本と違って、生産および輸出拠点としてのパワーを維持することに成功してきた。

2015年9月に当時のメルケル政権が無制限の移民受け入れを決定した余波もあって人口減少のペース鈍化が予想されており、その点でも、生産および輸出拠点としてのパワーを失いつつある日本とは大きく異なる。

しかし、そんなドイツもいよいよ転換点に差しかかっている。

フォルクスワーゲンのオリバー・ブルーメ最高経営責任者(CEO)は9月2日に発表した声明でこう述べた。

「ビジネスを行う場所としてのドイツは、競争力という点でさらに後れを取りつつある」

すでに触れたように、調達先をロシアに依存していた天然ガスは同国のウクライナ侵攻後の2022年8月に途絶し、メルケル政権時代に決定した脱原発も計画通り敢行(=2023年4月に全ての原発を運転停止)したことで、ドイツのエネルギーコストは大幅上昇した。

メルケル政権時代に「媚中(=中国に媚びを売る)外交」と揶揄されながらも独自に関係構築を進め、結果として自動車産業を中心にドイツ経済を押し上げる原動力となった中国市場も、中国側の景気停滞や外交上の軋轢(あつれき)を経て不透明感が増している。

ドイツ商工会議所が会員企業約3300社を対象として実施した最新の調査結果(8月1日付)は、同国企業の苦境を如実に表している。

それによれば、減産もしくは海外への移転を検討しているドイツ国内企業の割合は37%。2022年の21%、2023年の32%からさらに増えた。

エネルギーコストが高い(=電気料金が売上高の14%超)企業および従業員500人超の大企業ではこの傾向が顕著で、前者では45%、後者では51%、つまりおよそ半分の企業が減産や海外移転を検討している【図表2】。

エネルギーコストの上昇がもたらした結末はビジネス拠点としてのドイツにとって「決定的(crucial)」であり、「ドイツからの離脱トレンドを確認するものだった」と調査報告書は指摘する。

また、「ドイツの脱工業化が始まっており、それに対して誰も策を講じていないように思える」「組織的に可能であれば、生産拠点の(一部)海外移転も実施する」といった会員企業から聞かれたシビアな現状認識や選択も、報告書は取り上げている。

理想に絶望し、現実に覚醒するドイツ企業の様子が透けて見える。