8万円超えのパナソニック“究極ドライヤー”なぜ生まれた?

AI要約

パナソニックがヘアードライヤーの新ライン「nanocare ULTIMATE」を高価格で発売し、その性能に注目が集まる。

製品化の狙いは、髪を美しくするドライヤーとして新たな価値を提供し、個々の髪質や悩みに合わせた選択肢を提供することで多くのお客様に利用されることを目指す。

さらに、グローバル展開を視野に入れ、アジア市場を中心に販売を拡大する戦略を立てている。

8万円超えのパナソニック“究極ドライヤー”なぜ生まれた?

パナソニックが、ヘアードライヤーnanocare(ナノケア)の新ラインとして「nanocare ULTIMATE」を2024年9月から発売した。価格はオープンプライスだが直販価格84,150円(最上位モデルEH-NC80)という、ドライヤーとしては異例の高価格設定と、その性能に注目が集まる。

パナソニック くらしアプライアンス社の常務であり、ビューティ・パーソナルケア事業部長の南波嘉行さんに製品化した狙いと勝算について聞いた。

■ なぜ今、高価格ドライヤーなのか

――新たに発表した「nanocare ULTIMATE(以下:ナノケア ULTIMATE)」では、8万円を超える価格に注目が集まっています。どんな狙いで生まれた製品なのでしょうか。

南波嘉行常務(以下敬称略):パナソニックでは、2005年にナノイーを初めて搭載したヘアードライヤー「EH5421」を発売しました。実売価格で約2万円の商品です。当時は1,980円が一般的でしたから、異例の価格ともいえました。このとき、パナソニックが目指したのは、従来の髪の毛を乾かすドライヤーから、美しい髪にするためのドライヤーへと変革することでした。新たな挑戦であり、正直なところ、どれだけ売れるのかは未知数でした。

しかし、このドライヤーが高く評価され、その後、他社からも同様の高機能モデルが登場し、新たな市場が形成されたのは周知のとおりです。

2019年にはナノイーの水分発生量を18倍に向上し、髪の内部への浸透を高めた高浸透ナノイーによる「EH-NA0B」を発売しました。このドライヤーは市場価格が4万円弱と、さらに高い価格設定となりましたが、それまでの実績がありましたので市場に受け入れられるだろうという手応えはありました。この分野で先行した強みを生かし、品質や信頼性では、さらに差別化ができると考えていたからです。

また、利用者の声を聞くと、サロンの料金や化粧品の価格と比べながら、ドライヤーの価値を評価するという動きが出ていましたので、そうしたニーズを捉えることができると考えました。

そして、今回の製品は「みんなが驚き、誰が使っても不満を言わないドライヤー」を目指しました。つまり、「パナソニックが究極のドライヤーを作るとこうなる」というものを作り上げたのです。

もし5年前に、この価格帯のドライヤーの商品企画があがってきたら「ちょっと待った」ということになっていたかもしれません(笑)。しかし、いまこそ、パナソニックが究極のドライヤーを投入すべきだと考え、今回の商品化に至っています。これが成功すれば、他社もこの分野に追随できますし、新たな市場が創出できると考えています。

■ “なりたい髪”選べるドライヤーに

――ナノケアドライヤーは、髪を乾かすドライヤーから、髪を美しくするドライヤーに進化したことで、新たな価値を提供してきましたが、今回の新たなドライヤーでは、どんな価値を提供するのですか。

南波:私たちがモノづくりにおいて苦労していたのは、お客様ごとに髪の質が異なり、髪型も違い、悩みが異なること、また、なりたい髪質や髪型、スタイリングも違うということに対して、1種類のドライヤーで対応しなくてはならないことでした。

それでも、パナソニックの研究者や技術者たちは徹底的にこだわった商品を作り上げ、それが評価され、95%以上のお客様に満足をいただいています。しかし、逆に考えれば数%のお客様には満足をいただけていないわけです。

そこで発想を変え、お客様の髪にあわせて選べるドライヤーにしてはどうかと考えました。

水分発生量を従来比で最大10倍とした第2世代の高浸透ナノイーを採用しただけでなく、高浸透ナノイー、ミネラル、マイナスイオンの発生量を調整することで実現した4つのパーソナルメニューを用意し、それぞれの悩みに対応しながら、なりたい髪へ導くことができるようにしています。

パーソナルメニューの「MOIST」では、髪のパサつきが気になる人に、しっとりまとまる髪を実現し、「STRAIGHT」では、髪のうねりが気になる人に対して、くせを伸ばして、指通りのよい髪を実現します。「AIRY」では、髪がぺたっとしやすい人を、ふんわりボリュームのある髪に変えます。そして、「SMOOTH」は、髪の手触りが気になる人を、サラサラな髪にすることができます。

このように、なりたい髪によって、自由にメニューを選んでもらえるようにしたことで、より多くのお客様に利用をしていただけるようになりますし、髪のスタイリングをもっと楽しめるという提案も可能になります。

多様化するお客様の髪の悩みに応えるとともに、乾かすだけで、なりたい髪に導くという新たな価値創造を目指したわけです。今回は、お客様がなりたい髪を選べるドライヤー、お客様の髪に合わせられるドライヤーを完成させました。その点では、これまで誰も体験をしたことがないドライヤーになったといえます。

――製品化に向けて、事業部長として、社員とはどんな会話をしていたのですか。

南波:今回のドライヤーを市場投入するのはなんのためか、これは、誰を喜ばせるためのドライヤーなのかということを、何度も議論しました。それを明確にした上で、性能においても、価格においても、いままでにない水準のものを出すことに決めました。実際に、完成した商品は、非常にいいものができたと自負しています。

手に取ったときに、これならば行けると思いましたね。そして、この商品は、高性能ヘアードライヤー市場をリードするパナソニックだからこそ、やるべき提案だとも考えています。

■ もうひとつの新たな狙いとは

――今回の「ナノケア ULTIMATE」は、なにを指標に成功を判断しますか。

南波:パナソニックのビューティ・パーソナルケア事業では、2030年度に売上高3,000億円を目指しています。そして、中間地点となる2027年度には、アジアでナンバーワンになることを打ち出しました。アジアナンバーワンになるということは、シェアという観点だけでなく、この分野で高い認知度を誇ることはもちろん、この商品をほかの人に薦めたくなるという指標でも、高い水準にあることが前提となります。

今回の「ナノケア ULTIMATE」は、これを実現する重要な役割を担います。「高級ドライヤーといえば、パナソニックである」、「ナノケアはとてもいいドライヤーである」という評価が、私たちがターゲットとする人たちに定着し、そうした人たちから情報が発信されるという状況を作りたいと思っています。

そして、「ナノケア ULTIMATE」には、もうひとつの狙いがあります。

――それはなんですか。

南波:これだけいい商品が完成したのに、なぜ日本での販売にこだわるのかという点です。

――つまり、グローバル展開を視野に入れた製品であると。

南波:これまでの商品は日本市場をメインとして、「プラス海外」という考え方でした。しかし、ドライヤーという商品を考えた際に、アジア市場は、日本人と同じ髪質を持った人たちが多く、なりたい髪質やスタイリングも似ています。日本市場において、高性能ドライヤーの需要があるように、アジアや中国市場でも同様の市場が想定され、そこをターゲットに捉えたいと思っています。

私はドライヤーの事業戦略を推進する際に、日本だけでなく、アジアや中国の市場も、同時に視野に入れて商品開発することを、今回の商品をきっかけに、当たり前にしていきたい。そう考えています。

これはドライヤーだけではなく、ビューティ・パーソナルケア事業の幅広い製品群を対象に推進していきます。中国や韓国、台湾、マレーシア、タイ、ベトナム、シンガポールといった国と地域において、積極的な展開を行ない、各国でロードショーやイベント、ライブなどを順次、開催していきます。

まずはアジアナンバーワンを目指し、そこから、欧州や北米、中東を含めて、ビューティ・パーソナルケア事業におけるグローバル展開をさらに強化していきます。

■ 「値下がりしない」価値を消費者に

――ナノケアドライヤーは、パナソニックが推進している指定価格制度(店頭で値引きされない)において、最も構成比が高い商品のひとつになっています。今回の「ナノケア ULTIMATE」も指定価格制度の対象商品ですね。この販売比率はまだ高まるのですか。

南波:指定価格制度は、メーカーが指定した価格で販売する方法であり、価格が下がらないので、お客様はいつ買っても同じ価格です。従来のように、値下がりするのを待って買う必要がなく、また、買った後に値下がりして悔しい思いをしたということもなくなります。

メーカーにとっても、競合他社を意識した提案が少なくなり、商品の良さそのものを伝えるマーケティングに力を注ぐことができるようになるメリットがあります。ご指摘のようにナノケアドライヤーは、指定価格制度による販売比率が最も多い商品のひとつです。現在ドライヤー全体の45%を占めています。

また、美髪意識の高まりもあり、ドライヤーへの投資額が上昇していますから、平均単価は約10%上昇しています。価値の高い商品を、値下がりを待つことなく購入していただく環境が整っています。

ただ、私たちは、指定価格制度による販売比率を5割、6割、7割に高めることを前提とした戦略は、あまり意味がないと考えています。もちろん、指定価格制度での販売比率は高いほうがいいとは思っています。優れた機能はもちろんのこと、感性を含めた価値においても競争力を磨いていけば、指定価格制度による販売比率は自然に高まると思っています。

大切なのは、ナノケアドライヤーによって、お客様に納得をしていただける価値を提供し、競争力の高い商品を市場に投入しつづけることだと思っています。