「仕事のせいで本が読めない」のは普通? 話題書が指摘する「現代人の働き方の問題点」

AI要約

現代社会において働いていると本が読めない理由について、時間の問題ではなく社会の構造に原因があるという著者の主張に焦点を当てる。

インターネットの普及により手軽に得られる情報と、本から得られる知識の違いによって、急いで役に立つ情報を求める現代のビジネスパーソンにとって本はノイズが多く、読む余裕がないという現象を解説する。

最近のビジネス書や実用書が人気を集める一方で、小説やエッセイ、人文書などの「知識」を得るための本は手が伸びにくく、ビジネスパーソンのリアルな姿を浮き彫りにする。

「仕事のせいで本が読めない」のは普通? 話題書が指摘する「現代人の働き方の問題点」

各所で話題となり、発売1週間で累計発行部数10万部を突破した『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆、集英社)。大手Web書店では1,000近くのレビューが集まり(2024年8月時点)、その他にも多くの感想記事や紹介記事が発表されている。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」は、それだけ多くの人をドキッとさせ、答えを探したくさせる問いなのだろう。

今回は、読書家が集まる本の要約サービス「flier(フライヤー)」編集部が、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』に込められたメッセージを解説するとともに、本書と合わせて読んでほしい本を3冊挙げる。

■SNSや動画を見る時間はあるのに、本は読めない現代人

働きながらたくさんの本を読めている......現代においてそんな人はほとんどいないだろう。

その理由を問われると、おそらく多くの人は「時間がないから」と答えるはずだ。だが、本当に「時間がない」のだろうか?

すべてのSNSを一通り見て回る時間はあるのに?

自分の業界のニュースをチェックする時間はあるのに?

飲み会をハシゴする時間はあるのに?

つまり、私たちが本を読めない最大の原因は、時間がないことではない。私たちの怠惰さゆえでもない。日本社会の構造が「そうなっている」だけなのだ。

「いや、そもそも本が読めない働き方が普通とされている社会って、おかしくない!?」

──『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の冒頭において、著者の文芸評論家・三宅香帆さんはこう提起している。

■私たちが「働いていると本が読めなくなる」本当の理由

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』では、明治以降の読書史と労働史を紐解きながら、「働いていると本が読めなくなる」と理由を探っていく。

その答えをひと言でいうと「インターネットなどによって手軽に得られる『情報』に対して、読書によって得られる『知識』にはノイズ(偶然性)が含まれるから」だ。

多忙なビジネスパーソンは、仕事や生活にすぐ役立つ「情報」を収集するだけで精一杯になっている。私たちは知りたい「情報」をインターネットで検索し、最短ルートで回答を得る。

一方、本には「ノイズ」、つまり今の自分に関係のない「知識」が多く含まれているため、すぐ役立つ「情報」を得たいときにはやや遠回りだ。現代の多忙なビジネスパーソンには、そのような「ノイズ」を楽しむ余裕などない。

実際、本の要約を提供する当メディアでも、コミュニケーション術や時短テクニック、投資の基本など、仕事や生活にすぐ役立つ「情報」が得られる(と表紙をパッと見てわかる)ビジネス書や実用書が人気を集める傾向にある。

来週、重要なプレゼンがあるとする。そんなとき、自分のプレゼンスキルをすぐ向上させてくれそうな本は読める。一方、小説やエッセイ、人文書には手が伸びづらい──。これが現代日本を生きるビジネスパーソンのリアルな姿だろう。