意外と知らない、都市部と地方で一体どれくらいの「体験の格差」が存在しているのか

AI要約

都市部と地方の子どもたちの体験には格差があり、都市部の子どもたちはより多くの習い事やクラブ活動に参加している。ただし、その分支出額も高くなっている可能性がある。

地方の子どもたちには交通費負担など特有の問題があり、例えば離島の子どもたちは遠征や部活動にかかる交通費が高額で、経済的負担につながっている。

都市部と地方それぞれに特有の阻害要因があり、体験格差の解消には地域ごとの課題を把握し、適切な対策を取る必要がある。

意外と知らない、都市部と地方で一体どれくらいの「体験の格差」が存在しているのか

習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか?

低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。

発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。

*本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。

都市部に住んでいるか地方に住んでいるかの違いによって、子どもたちの「体験」の機会に、どれほどの格差が存在するのだろうか。このパートでは、調査回答者の居住地域に焦点を当て、「体験」との関係を見ていこう。

今回の調査では、回答者が住む都道府県を聞いている。そこで、既存の社会調査にならい、三大都市圏(東京、千葉、埼玉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫)を「都市部」とし、その他の地域(非三大都市圏)を「地方」として、調査結果の集計を行った。

すると、「放課後」の習い事やクラブ活動についても、「休日」のキャンプやお出かけなどについても、都市部の子どものほうが、地方の子どもよりもやや高い参加率となった。例えば、スポーツ系の習い事やクラブ活動への参加率は、都市部で48.8%、地方で41.8%となっている(グラフ17)。

また、「体験」への年間支出額を見ると、参加率よりも差がはっきりと出ている。都市部(9.7万円)のほうが、地方(6.4万円)よりも1.5倍ほど高い(グラフ18)。

都市部と地方とでは、「体験」への参加率よりも、支出額における格差のほうが大きい。なぜだろうか。一つの仮説として考えられるのは、都市部のほうが地方よりも様々な体験の価格が高いのではないかということだ。

調査からは、都市部のほうが地方よりも、企業など民間事業者が運営する教室やクラブに通っている子どもの割合が高いことがわかった(グラフ19)。休日に行う自然体験などでも同様だ。

逆に、地方では、都市部に比べて、地域や保護者のボランティアにより運営されている活動に参加している子どもの割合が相対的に高くなっている。

都市部のほうが地方よりも、体験の「提供者」における民間事業者の割合が高く、それゆえそこにかかる費用が高くなっている可能性があるだろう。

ただし、「体験」に関わる費用の中には、地方のほうが都市部よりも負担が大きいものもある点を見逃してはならない。その一つが、移動にかかる交通費の問題だ。

例えば、沖縄県那覇市の公益財団法人みらいファンド沖縄では、沖縄の様々な離島に住む子どもたちの部活動の派遣費負担について独自に調査を実施し、白書にまとめている。同財団副代表理事の平良斗星氏は、次のように語る。

離島の子どもたちが部活動の試合に参加するためには、沖縄本島や県外の都市部に遠征する必要があります。石垣島の子どもたちが本土の大会に参加したケースだと、旅費の高い夏休みには往復10万円以上の交通費がかかることもありました。そうした経済的負担はそのまま家庭にのしかかってくるため、経済的困難を抱える家庭の子どもが、本人の知らぬ間に選抜メンバーから外されてしまうという問題が、実際に起きています。

こうした交通費負担の問題は、沖縄や離島の子どもたちに限られるものではない。都市部からの距離が離れるほど、試合や発表会に参加するための交通費や引率の負担が大きくなってしまう。

都市部と地方の間にある体験格差の実態を把握することに加え、都市部にありがちな阻害要因、地方にありがちな阻害要因を、それぞれ見ていく必要もあるだろう。