このままでは廃墟のような建物が乱立… 都市部のマンションが直面する「2つの老い」という大問題

AI要約

日本の人口減少に伴い、空き家問題だけでなくマンションの老朽化も深刻化している。建て替えのハードルが高く、高齢住民の永住意識も建て替えを難しくしている。

国土交通省のデータによると、築40年以上のマンションが増加中で、高齢居住者が増える傾向がある。建て替え費用の上昇や住民の老後資金の問題が建て替えを難しくしている。

特にタワーマンションは区分所有者が多く、合意を得ることが難しい場合が多い。これにより都市部でも老朽化が進んでいる可能性がある。

このままでは廃墟のような建物が乱立… 都市部のマンションが直面する「2つの老い」という大問題

 人口が急速に減っている日本では、「空き家率」が20%を超え、「5軒に1軒が空き家」という地方も増えてきている。しかし、問題は地方の一戸建てに限ったことではない。より深刻な影響は、首都圏や大阪圏などの都市部でも顕在化してきている。その象徴がマンションであり、とりわけ問題解決のハードルが高いのは「タワマン」だという。どういうことか?

 人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリストの河合雅司氏(人口減少対策総合研究所理事長)が解説する(以下、同書より抜粋・再構成)。

 * * *

 増加し続ける「空き家問題」に加えて、住まいから見える日本崩壊のもう一つのシグナルは、マンションの老朽化である。

 半世紀以上にわたって急増し続けてきたマンションだが、いまや建物としての老朽化と居住者の高齢化という「2つの老い」に直面している。建て替えのハードルは高く、このままでは都市に廃墟のような建物が乱立する可能性もある。

 国土交通省によれば、2022年末時点のマンションのストック総数は約694万3000戸であり、このうち約125万7000戸が築40年以上だ。

 築40年以上のマンションは大幅増が見込まれる。国交省は2032年末に2022年末比で約2.1倍にあたる約260万8000戸、2042年末は約3.5倍にあたる約445万戸に達すると推計している。

 社会全体の高齢化に伴い、居住者の年齢も上がってきている。

 内閣府の「高齢社会対策総合調査」(2023年度)によれば、持ち家の分譲マンションに住む高齢者は8.3%である。国交省の調査によれば、世帯主が70歳以上の割合は「築40年以上」では48%、「築30年~40年未満」が44%と半数近くだ。「築20年~30年未満」も23%である。

 高齢居住者が増えるにつれて、近年は住み慣れたマンションを終の棲家にしたいという永住意識も高まっている。70歳代が79.2%、80歳以上は79.3%だ。だが、こうした高齢住民の永住志向は、老朽化したマンションの建て替えの大きな阻害要因となっている。

 近年、床面積を新たに生み出せる容積率が縮小傾向にあることに加え、建築資材の高騰で1世帯あたりの建て替え負担額は上昇している。国交省によれば2017~2021年の平均額は1941万円だ。

 一方で住民側といえば、デフレ経済の長期化の影響で賃金上昇が抑え込まれ、十分な老後資金を貯められないまま定年退職したという人が増加傾向にある。年金収入が中心の暮らしになってから2000万円近い資金を求められても、簡単に「イエス」とはならないだろう。

 こうして、高齢居住者が多いマンションほど建て替えの合意は得られにくくなっていく。区分所有者が多いタワーマンションはなおさらハードルが高くなりそうだ。

【プロフィール】

河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。