ドイツの産業は自動車だけではない…実は「中小企業」が大きなシェアを占めている業界
ドイツは、自動車メーカーだけでなく無名な中小企業たちも主役となり、製造業で経済を押し上げている。
ドイツの製品は高品質で、自動車だけでなく工具や家具などさまざまな分野で優れた製品が存在する。
ドイツ人エンジニアのクラフツマンシップが製品の技術力の源であり、19世紀末からの世界最高の技術大国・科学大国という地位を支えてきた。
2023年、GDPが世界4位に転落した日本と入れ替わる形で3位に浮上したドイツ。ドイツといえば自動車メーカーが真っ先に思い浮かぶが、実は産業の主役は無名な中小企業たちだという。在ドイツジャーナリストの熊谷徹氏が解説する。
(本記事は8月22日発売『ドイツはなぜ日本を抜き「世界3位」になれたのか』より抜粋・編集したものです)
【第一回はこちら】日本がドイツに抜かれてGDP「世界3位」へ転落…その逆転の「本当の理由」
ドイツは、金融・IT立国ではない。経済を押し上げた立役者は製造業だ。その原動力はどこにあったのだろうか。
ドイツの製品と聞くと、まずBMW、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンなどの自動車を思い出す人が多いのではないだろうか。たしかにドイツの自動車は、高速道路で時速150キロを超えるとタイヤが路面にぴったりと貼り付いたようになり、高い安定性を示す。200キロ近いスピードでもハンドルは揺れず、なめらかに操作できる。アクセルを少し踏むだけで、背中が座席に押しつけられるような加速。
あるドイツ人の知り合いは、すでに100万キロメートル以上走ったディーゼルエンジンのベンツに乗っている。ディーゼルの乗用車は、こまめに整備すると長持ちする。ドイツ車は、デジタル面では中国や米国の車に劣るが、機械的な部分、メカニカルな面では高い水準を保っている。価格は高いが、自動車ファンにとってドイツ車は深い魅力を秘めている。日本にも、ドイツ車ファンは少なくない。
ただしドイツの製品が優秀なのは、自動車だけではない。消費者の目につかない分野でも、優れた製品が沢山ある。
私が子どもだった頃、つまり昭和時代後半の日本では、「メイド・イン・ジャーマニー」という言葉に、独特の魅力があった。特にドイツ製の自動車、刃物、工具、文房具、鉄道模型については、その品質の高さゆえに、多くの日本人が憧れを抱いていた。今日ほど簡単に日本からドイツに旅行できなかった当時、親類や知人が海外の出張先から持ち帰ったドイツの製品は、私の目をひきつけた。
一眼レフカメラの分野では、第二次世界大戦後、長年にわたり日本の製品が世界でナンバーワンの地位を占めた。1980年代にホワイトハウスで大統領を撮影する報道カメラマンたちが使っていた一眼レフカメラは、全て日本製だった。
だが、日本製カメラが世界を席巻する前には、ドイツのライカの製品が世界で最も優秀と言われた。たとえば第二次世界大戦の戦場で取材した伝説的カメラマン、ロバート・キャパらはライカを使っていた。
私は1990年にドイツに住み始めてから、この国の工業製品の中に、本当に優秀な物があることを改めて感じた。分厚い石の壁でも瞬時に穴を開けるボッシュの電動ドリル、家具を組み立てる際にネジを効率よく回す電動ドライバー、屋外の寒さを遮断し暖房の効率性を高める二重窓。実際にドイツの暮らしの中で使ってみて、こうした製品の真の価値が初めてわかった。ドイツの製品は、他の欧州諸国でも人気がある。
ドイツの工業製品の優秀さ、高い技術力の源は、ドイツ人エンジニアのクラフツマンシップ(職人気質)だ。細部へのこだわりと完全主義には、日本人とやや似た面もある。
この国は19世紀末から20世紀の前半にかけて世界最高の技術大国・科学大国だったが、その陰にはこうしたドイツ人気質もあった。