なぜ料金前払い?東電が「発電ゼロの原電」に1400億円

AI要約

東京電力が原発専業の日本原子力発電に毎年支払う基本料金とは別に、原電の安全対策の工事費用として、2021年度から3年間で約1400億円を支払っている。東電はこれを原電への資金的協力と位置付けている。

東電以外の大手電力会社は、原電が必要とする安全対策費用を債務保証によって支援しており、その一部は東海第2原発の対策に充てられている。一方、東電は債務保証を行わずに電力料金の前払いという形で資金協力を行う決定を下した。

東電はこの決定を「金融機関からの与信が限界に達したため」と説明しているが、その主張に疑問が残る。また、東電が原賠機構を通じて国から資金を受けている状況で、電力料金の前払いによる資金協力が選択された背景について疑念が残る。

なぜ料金前払い?東電が「発電ゼロの原電」に1400億円

 東京電力が原発専業の日本原子力発電に毎年支払う基本料金(年550億円)とは別に、原電の安全対策の工事費用として、2021年度から3年間で約1400億円を支払っていると、24年8月7日、毎日新聞デジタルで報じた。この支払いは何を意味しているのだろうか。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】

 この約1400億円は東電が「将来の電力料金の前払い金」として原電に支払っているものだ。東電はこれを原電への「資金的協力」だと説明する。

 原電は東電など大手電力会社が出資する原発専門の電力会社だ。大手電力に原発で発電した電力を販売してきたが、11年5月から原発が全基停止しており、発電はゼロだ。今後も原発が再稼働できる見通しは立っていない。そんな原電に東電はなぜ「前払い」を続けるのか。

 ◇東北電力は債務保証だが

 大手電力会社の中で、原電が必要とする原発の安全対策費を「将来の電力料金から前払い」しているのは東電だけだ。

 東電が「前払い」で支払った約1400億円は、原電が進めている東海第2原発(茨城県)の安全対策費に使われている。東海第2原発は1987年の運転開始から45年超となる老朽原発で、津波対策の防潮堤など総額2350億円の安全対策工事を進めている。

 他の大手電力の原電への対応はどうか。東北電力は東電のような「将来の電力料金の前払い金」ではなく、原電が安全対策に必要な資金を民間の銀行から借り入れる場合、債務保証を行っている。

 原電は23年4月、みずほ銀行など11行から750億円、日本政策投資銀行から290億円を借り入れている。東北電力は関西電力、中部電力、北陸電力とともに、これらの借入金に債務保証を行っている。原電は24年4月、同額を借り換え、東北電力など大手電力は債務保証を続けている。

 原発の安全対策などに必要な資金を原電が民間の銀行から借り入れ、万一、返済できなくなった場合は、大手電力が原電の借入金を返済するというわけだ。

 東北電力などが債務保証を行った総額1040億円の借入金の一部は、東海第2原発の安全対策費などに使われているとみられる。この債務保証は「電力料金の前払い」よりも、原電への資金的協力として一般に理解しやすいだろう。

 ところが、東電だけが大手電力の債務保証に加わらないのはなぜか。原電に「資金的協力」を行うのが目的なら、東北電力のように債務保証でよいのではないか。発電ゼロの原電に、なぜ電力料金を前払いするのか、東電に聞いた。

 東電は「当社としてさまざまな方法を比較検討した結果、金融機関からの与信(借り入れ)をこれ以上増やしていくことが難しいことから、将来の電力料金を前払いすることで資金的協力を行うことにした」と回答した。

 ◇「総合的に勘案した」とは?

 ちょっとわかりにくい回答だった。この場合の「金融機関からの与信」とは何か。東電に確認すると、東電が債務保証することで、原電が銀行から借り入れを行うことを指しているのだという。つまり「東電が債務保証することで、原電が銀行からお金をこれ以上借りるのは難しい」と判断したということだ。

 ここでさらに疑問がわく。そもそも東電が東北電力のように債務保証をしないのは、政府が大株主であり、政府が大手電力会社などと設立した原子力損害賠償・廃炉等支援機構から交付金を受けているからなのではないのか。交付金の財源は国債だ。

 原発事故を起こした東電は原賠機構を通じ、被災者への賠償などで国から多額の資金を借りている。それなのに、原電の借り入れに東電が債務保証するというのも、おかしな話で、国民の理解を得られないのではないか。

 つまり東電は、東北電力のように債務保証ができないため、「電力料金の前払い」で対応したのではないか。

 この点を東電に尋ねると、「原賠機構から交付金を受けることをもって、当社が債務保証することが制約されるものではない。電力料金の前払いについては、当社の財務状況などを総合的に勘案して決定した」との返事が返ってきた。

 「総合的に勘案した」とは、どういうことなのか。約1400億円の前払い金を東電はどこから調達したのか。