この目標設定とフィードバックで「努力」が一気に楽しくなる…仕事のデキる人が実践する"仕組み化の魔法"

AI要約

努力を続けることが苦痛になる理由と、フィードバックと目標の重要性について

フィードバックの効果を示した安全行動促進の研究例を紹介

日常的な質的フィードバックが部下の安全行動ややる気に与える影響について

努力を難なく続けるには、どうすればいいか。行動経済学のコンサルティングを行う山根承子さんは「『自分の頑張り』を自分自身で適切に評価できなくなったとき、楽しかったはずのことが『つらい努力』に変わる。これを乗り越えて努力を続け、成長していくためには、どんな形であってもフィードバックと目標が必要になる」という――。

 ※本稿は、山根承子『努力は仕組み化できる』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■そもそも努力はなぜ「つらい」のか?

 「努力を続けること」は、いつから苦痛を感じるものになってしまったのでしょうか。スポーツや趣味などを新しく始めたときのことを思い出してみましょう。中学1年で部活動を始めたときなどが、わかりやすくていいかもしれません。

 新しいことを始めたばかりのときは、毎日、できることが増えていきます。それが楽しくて、毎日の部活も「努力している」とは思わず続けられていたのではないでしょうか。

 しばらくすると「基礎練習が面倒臭い」「部活をやめたい」となりがちですが、これはスキルが一定レベルに達したことで、日々の成長を感じにくくなったせいでしょう。毎日の練習から何のフィードバックも得られない状態では、努力を続けるのは難しいのです。

 筋トレもわかりやすい例です。筋トレを始めてすぐの頃は、重量が増えたり、走れる時間が延びたりといった明確なフィードバックを得られます。筋肉痛もフィードバックの1つで、「トレーニングを頑張った」と感じさせてくれるでしょう。

 これらが何もないと、「このトレーニングには意味があるのだろうか?」と思い、そのうちやめてしまうことになるでしょう。このようなことは、全ての「努力」に当てはまるのではないでしょうか。

■「目に見える」変化が人の行動を変える

 フィードバックの重要性を示した研究は数多くあります。例えば、工事現場の作業員の安全行動を促進することを目的として、ある取り組みを行った研究を紹介しましょう。

 工事現場の事故を減らすためには、ヘルメットや安全靴、手袋などの保護具をきちんと着けること、現場を整理整頓すること、高所作業を正しく行うことなどが重要です。

 このような安全行動を習慣化させる、つまり「安全であるよう努力を続けさせる」ためには、どんな働きかけをすればいいのかを示した研究です。

 実験は介入前3週間、介入後6週間の合計9週間にわたって行われました。介入前というのは何の施策も行わない通常状態のことで、介入後というのが施策実施中を指しています。

 介入が始まると、まずは従業員と相談した上でその週の目標を決めます。例えば「保護具の着用率を92%以上にする」などです。そして毎週初めに、皆が毎日一度は見る場所(工事現場の壁や休憩所など)に「先週のフィードバック」が図で掲示されました。

 この図には目標も一緒に記載されていて、先週の自分たちがどの程度安全な行動が取れていたか、目標とどれくらいの乖離があったのかが、すぐにわかるようになっていました。

 この研究では、研究者があらかじめ作成したチェックリストを持って現場を巡回することで、各現場の安全性を測定していました。チェックリストは「ヘルメットを着けていない人は何%いたか」「粉じんの出る作業をするときに防護マスクをしていない人が何%いたか」といったものでした。

 ある現場での結果は図表1のようになっていました。実験前は保護具の着用率が82~85%程度だったのですが、目標とフィードバックの掲示によって87%、90%と伸びていき、最終週には目標の92%に達しています。

 この研究は3つの工事現場で行われましたが、2つ目の現場でも、介入開始前は81.5%だった安全行動が介入終了時には93.5%に改善し、3つ目の現場でも介入開始前は85.8%だったのが最終的には91.9%になっていました。

 目標設定とフィードバックは、行動の改善と維持にかなり効果があると結論付けられていますが、納得の結果でしょう。

 安全行動を高めるためにフィードバックを掲示するという研究は他にもいくつか行われていますが、どの研究でもフィードバックの効果の高さが示されています。

■部下をやる気にさせるフィードバックとは?

 いま紹介した研究は、数値でわかりやすく与えられるフィードバックの話でした。ノルマや試験の点数はこれに当たるでしょう。

 しかし普段の仕事で最も身近なのは、上司などから受ける質的なフィードバックではないでしょうか。そのような上司や同僚からの日常的なフィードバックも、やはり効果的であることを示した研究があります。

 これも先ほどと同様に、工事現場の安全行動を促進することを目的とした研究です。中国の建設会社における3つのグループ(上司3名とその部下たち139人)のデータを使用しており、上司のコミュニケーションスタイルが、部下の安全行動や安全意識にどのように影響しているかを検証しています。

 まず、上司とのコミュニケーションにどのくらいフィードバックが含まれているかをグループごとに測定したところ、グループ1では7.5%、グループ2では2.4%、グループ3では14.6%となっていました。グループ3は普段からかなり多くのフィードバックが行われているといえます(図表2)。

 そして実際に工事現場でどの程度、危険な行動が取られているかを見てみると、グループ3の危険行動が最も少なくなっていました。

 具体的には、グループ1は全体の36.1%が危険行動だと判定されたのに対し、グループ2では24.4%、そしてグループ3は9.6%と抜きん出て低かったのです。日常的なフィードバックにより、「安全な行動を継続する」ことができているのでしょう。

 上司側に立つと、「人をやる気にさせる人は、フィードバックがうまい」のだといえるでしょう。これは、人を努力させる「コツ」のひとつかもしれません。