「ギリギリでも間に合ってしまった…」“誤った成功体験”が先延ばしを助長する ペナルティや報酬で「正しい成功体験」へ上書きすることが重要

AI要約

締め切りや提出期限が決まっている仕事において、先延ばしをしないためにはどうすればよいのかについて解説。

誤った成功体験が先延ばしの原因となっていることについて具体例を挙げながら説明。

先延ばしグセをやめるためには、一度「痛い目」に遭うことが必要であり、具体的な状況を想定してその効果を説明。

「ギリギリでも間に合ってしまった…」“誤った成功体験”が先延ばしを助長する ペナルティや報酬で「正しい成功体験」へ上書きすることが重要

 締め切りや提出期限が決まっている仕事。「こまめに」「早く」取りかかれば余裕を持って間に合わせられるのに、「先延ばし」にしてしまうことはままあるだろう。先延ばしをしないためにはどうすればよいのか。著書『すぐやる脳』が話題の脳神経外科医の菅原道仁氏が解説する。

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「こまめにやる、早めにやる」ことを怠ったため、あとからしんどい思いをする……。

 その代表的な事例のひとつに、企業の経理業務や、ビジネスパーソンの交通費や経費の「精算作業」が挙げられます。

 厳密性が求められるだけに、記憶が確かなうちに済ませてしまったほうがラクなことは事実。とはいえ、ほかの「より優先順位の高い事柄」に押されて、ついつい先延ばしにしがちです。

「会計士さんに経理をお願いしているから、レシートを送ればいいだけなのに、それすらこまめにできなくて、催促されるまで数か月分の帳票類を手元にためてしまう」

 そんな経営者のお悩みを聞いたことがあります。

「お金が戻ってくるのはうれしいはずなのに、その手間のわずらわしさを思うと、早めに着手できない」

 このように嘆くビジネスパーソンも、決して珍しくありません。

「先延ばしをしたくないけれども、どうすればよいのですか?」と訊かれたとき、私は「一度、“痛い目”に遭うことが早道です」とお答えしています。

“痛い目”とは、いったいどういうことか、説明しておきましょう。経理業務にしろ、精算作業にしろ、先延ばしグセがある人は、「今までに失敗をした経験がない」。そうは言えないでしょうか?

 たとえば、周囲に「提出が遅い」と指摘されたり、小言を言われたりしながらも、最後はうまくいった。

「この3か月前のタクシーのレシートは、どこからどこまで乗ったのだったか」と忘れてしまっても、スケジュール帳を見れば、難なく思い出せた。つまり、一種の「成功体験」が身にしみついているから、「この程度なら大丈夫」とズルズル先延ばししてしまうのです。

「先延ばしをするのは、褒められない過去の成功体験が原因」という意味を込め、私はそのような“成功体験”を「誤った成功体験」と呼んでいます。

 誤った成功体験は、ほかの事柄にも当てはまります。

 夏休みの宿題を8月の下旬まで着手できないのも、「去年もギリギリで通用したから」という誤った成功体験のせい。試験に一夜漬けの勉強で挑むのも、「毎回なんとかなっている」という誤った成功体験のせい。

 その証拠に誤った成功体験がないところでは、先延ばしをしようという気持ちにはなりにくいものです。

 たとえば、小学1年生や新入社員の時期、新たな人間関係の場に身を置いたとき、緊張も手伝うせいでしょうか、あらゆる局面で「先延ばしをしよう」という気持ちにはならないはずです。

 話を元に戻しましょう。

 先延ばしグセをやめたければ、“痛い目”に遭えば簡単です。

「今月は、レシートの提出が1日遅れたので、あなたが立て替えた10万円は返金できません」と経理部から知らされる……。

 あくまで仮定の話ですが、そんな事態を1回でも経験すれば、次の月からは絶対に先延ばしをしなくなるはずです。