【BMW R12 nine T 試乗】現代のバイクが忘れかけた何かを感じさせてくれる…鈴木大五郎

AI要約

BMW『R12 nine T』はフルモデルチェンジを経て、デザインや走行性能が向上し、低重心で扱いやすくなった。

新型はエンジンやフレーム周りの改良により、トルクが太くなり、オートシフターも採用されている。

走りの楽しさと快適性を両立する一方、伝統と現代性を感じさせるBMWモデルとして注目を集めている。

【BMW R12 nine T 試乗】現代のバイクが忘れかけた何かを感じさせてくれる…鈴木大五郎

モーターサイクルジャーナリストの鈴木大五郎がBMW『R12 nine T』を試乗。今回試乗したR12 nine Tは、フルモデルチェンジを経てデザインや走行性能が向上。低重心で扱いやすく、現代の技術も搭載した魅力的なモデルとなった。

◆フルモデルチェンジを経て、何が変わったのか?

2013年に登場した『R nine T』は、BMW伝統の空冷ボクサーエンジンを搭載したネイキッドマシンだ。同社が過去にリリースしていた名車を彷彿させながら現代の性能もしっかり組み込むという、当時流行してきていたヘリテージブームを牽引する存在でもあった。また、純正至上主義と思われていたBMW自らが様々なカスタムに着手。カスタムシーンに大きな影響を与えたことも記憶に新しい。

そのR nine Tはその後様々なラインナップを展開して人気を博しているが、今回10年ぶりとなるフルモデルチェンジが行われた。

イメージはこれまでのR nine Tと大きくは変わらないものの、ガソリンタンクをはじめ、主要パーツには新たなデザインが与えられている。美しいものは不変だというポリシーに基づきつつも、よりフィット感にこだわりをみせる。また、フレーム周りも一新。見た目だけでない走りの実力をより引き出したという。

◆オンリーワンのフィーリングが気持ち良い

マシンの存在感は高いものの、シート高は低めでライディングポジションも比較的コンパクト。とくにガソリンタンクが短くなり、幅もスリムになったため取っつきがよく気軽に走り出すことが出来る設定だ。

エンジンは従来型R nine Tから変更はないとのことだが、排ガス対策等による再セットアップの結果、トルクは若干太くなっているとのこと。回転数に関わらず、どこからでも気持ち良くグイグイと車体を前に押し進める。低重心からグイグイと加速していくオンリーワンのフィーリングが気持ち良い。

あらたに採用されたオートシフターはトルクフルで、ミッションが離れ気味のこのエンジンに採用するのはなかなか難しかったというが、スムーズな作動を確保していて違和感がない。

◆操っている感が痛快!しなやかで踏ん張る設定に

メインフレームは2ピースをボルト止めしていた従来型に対してワンピース構造となり、軽量化とともに剛性アップも図られている。また、リヤショックの取付方法が変更されたことにより、やや突き上げ感が強かった従来型に対して、しなやかさが大きく向上しているのが印象的だ。

足回りのストロークは短めで、これは乗り心地を犠牲にしないわけではないものの、スタイリング同様しっかりと地面を捕まえて踏ん張っているといったフィーリングがより強く味わえる。

スペイン郊外のワインディングをこれでもかとハンドルをこねくり回しながら走り抜ける。スポーツライディングも許容してくれるだけでなく、そのときの操っている感が痛快で満足感も非常に高い。

車高は低めながら、よっぽど攻めた走りをしない限りマシンのどこかを接地させるなんてこともなかった。走りをどこかで妥協する必要なんて全くないのである。また、トルクフルなエンジンに誘われてすぐにトップにかき上げ、低中回転のトルクを味わいながらドコドコと走らせて行くのも楽しい。

◆現代のバイクが忘れかけたなにかを感じさせる

ライディングモードはレイン、ロード、ダイナミックの3種類で、路面状況によってだけでなく、気分によって変えることが出来るのも嬉しいところだ。風を感じ、そして格闘しながら走らせる時間はなんとも貴重なもので、現代のバイクが忘れかけたなにかを感じさせたりもする。

古き良き時代を思い出させるバイクらしさを一際感じさせる一方で、不意のスリップにはABSやトラクションコントロールという、現代の保険適用の有り難みも感じるのである。

現在、BMWモトラッドでは3つの異なるボクサーエンジンをラインナップしている。唯一無二のエンジンレイアウトであるが、R12 nine Tの空冷ユニットは熟成が進んでいると同時に、至極シンプルでもある。その伝統と存在感をもっとも味わえるマシンはとても貴重なものである。

■5つ星評価

パワーソース:★★★★

ハンドリング:★★★

扱いやすさ:★★★★

快適性:★★★

オススメ度:★★★★

鈴木大五郎|モーターサイクルジャーナリスト

AMAスーパーバイクや鈴鹿8耐参戦など、レース畑のバックボーンをもつモーターサイクルジャーナリスト。1998年よりテスター業を開始し、これまで数百台に渡るマシンをテスト。現在はBMWモトラッドの公認インストラクターをはじめ、様々なメーカーやイベントでスクールを行なう。スポーツライディングの基礎の習得を目指すBKライディングスクール、ダートトラックの技術をベースにスキルアップを目指すBKスライディングスクールを主宰。