「EV失速」は間違い? メディアの単なる“切り取り報道”か? 本当に失速しているのか

AI要約

テスラや比亜迪(BYD)など大手電気自動車(EV)メーカーのEV販売が失速し、需要は停滞気味。EVシフトが進むとの見方もあったが、日本メーカーがコスト競争力のある普及モデルを投入できるかどうかが、EV販売拡大の成否を分ける。

テスラのEV販売が伸びていない主な理由は、販売台数の9割以上を占めるモデル3とモデルYがモデルチェンジがされていないこと、特にモデル3が6年以上も改良されていない点が挙げられる。

決算資料を見ると、テスラの販売は欧州や中国で下降線をたどっているが、北米では横ばいを保っており、世界的なEV失速とは言い切れない状況だ。

「EV失速」は間違い? メディアの単なる“切り取り報道”か? 本当に失速しているのか

 本連載は「ビーフという作法」という。「ビーフ」とは、ヒップホップ文化における対立や競争を意味する。1984年にウェンディーズのCMで使用されたキャッチコピー「Where’s the beef?(ビーフはどこだ?)」は、相手を挑発するために使われたが、その後、ヒップホップの世界で広く受け入れられるようになった。本連載はそれにならい、モビリティ業界に関するさまざまな問題やアプローチについて率直に議論する場を提供する。他のメディアの記事にリスペクトを払いつつ、建設的な批判を行うことで、業界全体の成長と発展に貢献することを目的としている。

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 時事ドットコムが2024年4月18日、「EV失速、自動車市場で何が起きているのか◆「意識高い系」購入一巡の先」という記事を配信した。

 記事を要約すると、テスラや比亜迪(BYD)など大手電気自動車(EV)メーカーのEV販売が失速し、需要は停滞気味。EVシフトが鮮明だった海外メーカーもトヨタ自動車など“出遅れ組”が健闘するなど、戦略の転換が始まっている。一気にEVシフトが進むとの見方もあったが、日本メーカーがコスト競争力のある普及モデルを投入できるかどうかが、EV販売拡大の成否を分ける、というものだ。

 失速の根拠として2024年1~3月期のEV販売台数を示し、

・テスラ:2020年4~6月期以来約4年ぶりに減少

・BYD:直近の2023年10~12月期と比較して4割以上減少

などと伝えている。さらに、中国で競争が激化する一方、欧米では

「最新技術や環境問題への関心が高い高所得者層のEV購入が一服したことも、成長鈍化の一因」

指摘している。

 本稿では、この記事を三つの観点から批判する。

 テスラは2024年7月23日、2024年4~6月期決算を発表した。期間販売台数は44万3956台で前年同期比5%減と、前期から2四半期連続で前年割れとなった。米国でのEV需要減速や中国での競争激化が販売低迷を招いているとの報道が相次ぐが、決算発表で公表された地域別シェア推移は、グラフ(上)のとおりである。

 グラフから、欧州と中国でのシェアは2023年第4四半期から下降線をたどり始めているが、北米は横ばいを維持していることがわかる。また、シェア変動率はわずかに過ぎず、EV販売が失速しているとはいい切れない。

 次に、同じ決算資料に掲載されたふたつのグラフ(下)に注目した。

 下左グラフは、テスラのEV失速が伝えられた2024年1月以降、下降傾向を示している。一方で下右グラフは、いまだ前年割れではないことがわかる。テスラのEV販売は2024年初めから前年割れが続いているが、その程度は軽微で、世界的なEV失速にはつながらない。

 そもそも、テスラのEV販売が伸びていないのは、世界的なEV需要減速が主要因ではなく、販売台数の9割以上を占めるモデル3とモデルYが、

「発売開始からモデルチェンジが実施されていない」

ことが一因である。モデル3に至っては、2017年から6年以上もモデルチェンジがされておらず、これらの刷新と手頃な価格の新モデル投入が待たれている。