実質賃金プラス定着なるか カギ握る生産性向上 株価乱高下で消費心理悪化も

AI要約

実質賃金が27カ月ぶりにプラス圏に浮上したが、一時的な要因も含まれるため注意が必要。

実質賃金は春のボーナスや物価上昇により上昇したが、今後はプラスとマイナスが続く見込み。

実質賃金の定着のためには企業の生産性向上が重要であり、金融市場の影響も懸念される。

実質賃金プラス定着なるか カギ握る生産性向上 株価乱高下で消費心理悪化も

厚生労働省が6日発表した6月の毎月勤労統計調査で、実質賃金が27カ月ぶりにプラス圏に浮上した。国民生活が楽になってきたことを示す明るい材料ではあるが、夏のボーナスなど一時的な押し上げ要因が含まれる点には注意がいる。物価も賃金も緩やかに上昇する経済の好循環を作るには、実質賃金プラスの定着を図ることが肝心だ。

■「一時的なプラス」との見方

6月の実質賃金は前年同月比1・1%上昇。ロシアのウクライナ侵略や歴史的な円安を背景とした物価高に、賃金の上昇が追い付かない状況からようやく抜け出した。ただ、識者の間では、これを「一時的なプラス」とみる意見がほとんどだ。

経団連によると、大手企業の今夏のボーナスは昨夏に比べ4・31%増の98万3112円と過去最高水準。令和6年春闘で決まったベースアップ(ベア)が4月までさかのぼって6月にまとめて支給されるケースが多いことも、名目賃金を上振れさせた可能性がある。

先行きの実質賃金について、SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「プラスとマイナスを行ったり来たりしそうだ」と予想する。夏場にマイナスに転じるものの、政府が再開した電力・ガス料金の負担軽減策が9月請求分から反映されることで、再びプラスに戻るとの見立てだ。

■カギは生産性向上

政府が実質賃金を重視するのは、これが個人消費の動向に直結し、景気を左右するからだ。総務省が6日発表した6月の家計調査では、家計が今も消費に慎重な様子がうかがえる。

宮前氏は「実質賃金のプラスが定着するかは不透明だ」と語った上で、定着させるには、企業の生産性向上の取り組みがカギを握ると指摘する。

生産性が上がれば、それだけ賃金を支払う余裕ができる。働き方改革で労働時間が減る傾向にあっても、労働者は手取りの増加を期待できる。

それが実際に消費に結びつくにはまだハードルがある。波乱要因となりそうなのが金融市場の動向だ。為替が円高に向かえば、物価高の抑制が期待できる反面、輸出関連企業を中心に業績が下振れ、来年の春闘に響く恐れがある。株価の動揺が続けば、消費マインドには逆風となる。(米沢文)