日銀の「円防衛」利上げ、変化したロジック【播摩卓士の経済コラム】

AI要約

日銀は7月の決定会合で政策金利を0.25%引き上げることを決定し、物価安定のための新たな理念を示した。

植田総裁は、円安による物価上昇のリスクを強調し、利上げの判断に影響を与えたと公言した。

利上げの最大の理由は円安是正であり、植田総裁は円相場の安定を図る姿勢を示した。

日銀の「円防衛」利上げ、変化したロジック【播摩卓士の経済コラム】

日銀が7月の決定会合で、政策金利の0.25%への引き上げを決定しました。これまで日銀は、利上げの条件として、『安定的持続的な物価上昇率2%』という目標達成が見通せたら、と説明してきました。

しかし、今回は「円安による物価上振れリスク」に加え、『緩和の度合いを調整』という新たな理屈まで登場させ、そのロジックを大きく変えました。

■植田総裁「この辺でということ」

注目された決定会合、事前の予想では、「利上げ見送り」が多数派でした。それだけに、利上げ決定後の植田総裁の記者会見では、「なぜ、このタイミングで利上げに踏み切ったのか」と繰り返し質問されました。

会見終了間際に、植田総裁が自分の言葉で語った言葉が本音をよく表しています。

「新年度に入ってデータがある程度まとまってきたこと。すこし早めに調整した方が、後が楽になること。2%を超えるインフレがもう長く続いていて、さらに上に行くリスクもあることを考えると、この辺でということかと思った」と述べたのです。

これまで「物価目標」の「達成の確度」によって、利上げを判断していくとしていた説明に比べると、「この辺でということ」と、かなり「ざっくり」とした言い方で、理論派の経済学者である植田総裁の本来の姿とは違った印象を受けました。

■利上げの最大の理由は、円安是正

この発言からは、今回の利上げを決めた具体的な理由は、円安であったことがうかがえます。

植田総裁は会見で何度も、輸入物価の上昇が物価を上振れさせるリスクに言及しました。

円安による物価上昇が消費を冷え込ませるとの懸念の声は、各界から出ていました。

4月に「円安は無視できる範囲」ととられかねない発言をして、いわば「痛恨のエラー」を招いた植田総裁としては、継続的な利上げ姿勢を示すことで、円安是正につなげたい思いがあることは間違いありません。

逆に利下げを見送れば、折角150円台半ばにまで円高方向に戻した円相場が、再び円安の逆回転するリスクもあったことでしょう。