ハワイ・マウイ島大火災の「爪痕」を現地レポート、日本の震災復興体験が現地にもたらしていた“光”とは

AI要約

日本全国に衝撃を与えた能登半島地震から7カ月、復興に向けた不断の努力が続く中で、マウイ島大火災の教訓から、災害対応やサステナビリティの重要性が浮き彫りになる。

火災が大規模かつ珍しいマウイ島では、ラハイナ地区が最も被害を受け、電力遮断が地域社会に与える影響や問題が浮き彫りになる。

電力会社や行政、コミュニティ全体が協力して取り組まねばならない電力遮断対策や地域のサステナビリティについての課題が示唆される。

ハワイ・マウイ島大火災の「爪痕」を現地レポート、日本の震災復興体験が現地にもたらしていた“光”とは

● ハワイ在住日本人から見た マウイ島大火災の深い教訓

 元日に発生した能登半島地震から7カ月。新年の祝賀ムードを一変させた震災は、日本中に衝撃を与えた。被災地では、ライフラインの復旧、仮設住宅への入居、建物の公費解体など、今も復興に向けて、不断の努力が続いている。被害を受けられた方々に改めてお見舞いを申し上げるとともに、一刻も早い復旧を心から願う。

 私自身も1995年1月に発生した阪神・淡路大震災時に伊丹市で被災した。幸い自身の被害は少なかったが、経験したことのない揺れ、崩れ落ちた瓦礫、余震の恐怖、ライフラインのない生活――30年の年月を経ても、当時の記憶が薄れることはない。

 私は今、早稲田大学からの長期出張で、ハワイ大学に客員研究員として滞在し、サステナビリティ(持続可能性)をテーマに、売上・利益といった財務目標と、環境保護や社会課題解決といった非財務目標の同時追求を目指す経営やマーケティングのあり方について、欧米の研究者と国際的な共同研究を進めている。

 昨年3月末にオアフ島ワイキキに移住し、約4カ月後の8月、マウイ島大火災が発生した。山火事そのものは、ハワイでは決して珍しいことではない。この記事を書いている今も、マウイ島やカウアイ島の山火事のニュースが流れてくる。

 しかし、マウイ島大火災は規模がまったく違っていた。オアフ島以上に観光産業に依存し、アメリカ・カナダ・日本からの観光客に人気だったマウイ島では、各地で火災が生じ、古都ラハイナはほぼ全焼した。1年を経てなお、仮設住宅に移らず、ホテル暮らしを続けている住民も多い。

 私は災害研究の専門家ではないが、自然災害への対処は、環境と人類との共存の観点からも、事業継続計画(BCP)の観点からも、サステナビリティの問題そのものである。ハワイ在住者として、現地からマウイ島の現状をレポートしたい。

● ラハイナ地区に残る災害の爪痕 電力の遮断が地域社会にもたらす影響

 2024年7月15日現在、最も甚大な被害を受けたラハイナ地区には、許可証なしに入ることはできない。しかし幸いにも、大火災の発生前に、ラハイナの渋滞を緩和するバイパス道路(国道3000号線)が完成していた。火災が続く中、ラハイナより北のリゾート地に取り残された人々は、このバイパスから救出された。

 そして今も、住民や観光客は、このルートで北西部のカアナパリやカパルア方面へ通り抜けることができる。「バイパスのおかげで、マウイ島の住民はラハイナから北を諦めずに済んだ」と、在住24年の日本人タクシードライバーRさんは言う。

 バイパスは山側にあり、車窓からは乾燥した山肌や枯れ草が見える。オアフ島のコオリナ方面もそうだが、マウイ島も西側は雨が少なく、強風時には草が擦れ合うだけで発火することもある。市街に張り巡らされた電線には木が覆い被さり、断線がいつ起きても不思議ではない。それが分かっていても、民間の電力会社に私有地の木を切る権利はない。

 ハワイ電力とマウイ電力は、マウイ郡や住民、株主から大火災時に送電を遮断しなかった責任を問われ、提訴された。同社の株価は下がり、高額な裁判費用も経営を圧迫している。これらは、やがて電気料金の高騰をもたらす。結局は、ブーメランのように住民に返ってくる可能性が高い。住民の意見は分かれている。

 そうした状況の中、2024年7月、ハワイ電力は、強風や乾燥時に危険地域への電力供給を遮断する公共安全電力遮断プログラム(PSPS)を開始した。裁判の決着はついていないが、今後の予防措置としての決断である。

 ハワイ電力は、PSPSの実施に伴い、ウェブサイト上で居住地が山火事危険区域内にあるかを検索できる機能も公開した。エネルギーをほぼ100%電気に依存しているマウイ島では、電気が止まれば水道も止まる。天候が回復し、人やドローンによる送電線の点検が終わるまで、停電は長期間にわたって続く。住民もそれを覚悟しなければならない。

 このように、電力の遮断が地域社会に与える影響は大きい。民間の電力会社だけで責任を負う話ではなく、中長期的に、行政やコミュニティ全体で取り組まなければならない問題である。