【社説】三菱UFJ不正 「顧客本位」の原点に戻れ

AI要約

三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が法令違反や顧客企業の非公開情報共有などの不正を犯し、役員ら21人の処分を発表。

銀行と証券の連携強化が不正の背景となったことが明らかになり、金融庁への提出などの再発防止策が求められている。

不正行為による業界全体への信頼失墜や、ファイアウオール規制の破り方について問題提起され、徹底した検証や啓発が必要。

【社説】三菱UFJ不正 「顧客本位」の原点に戻れ

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が法令を軽視し、顧客企業の意向を無視した営業を繰り返していたことが発覚した。

 国内最大の金融グループの不正は業界全体の信頼を損ねかねない。猛省を求める。

 三菱UFJ銀行と系列証券2社が顧客企業の非公開情報を無断で共有していた。金融商品取引法が定める「ファイアウオール規制」の違反で言語道断である。

 三菱UFJFGは、亀澤宏規社長、三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小林真社長を含む役員ら21人の一斉処分を発表し、再発防止策を含む業務改善計画を金融庁に提出した。

 亀澤氏は「グループの総合力を生かしてお客さま本位の営業をする中で、法令順守の意識の浸透が十分ではなかった」と記者会見で釈明した。だが一部役職員の認識不足を不正の理由に挙げるのは問題の矮小(わいしょう)化に他ならない。

 銀行と証券の連携強化でグループ収益の拡大を目指す経営方針が、一連の不正につながったのは明らかだ。不正の真因を見逃すことがないよう徹底した検証が必要だ。

 証券取引等監視委員会や金融庁によると、2021~23年に少なくとも顧客企業9社計10件の非公開情報を共有した。この中には銀行の専務が直接関わった案件があり、頭取だった三菱UFJFGの三毛兼承会長は、不適切な情報共有の可能性を認識しながら適切に対応しなかった。

 銀行は有価証券関連業務ができないルールも破った。三菱UFJ銀行は、系列証券会社を引受先や割当先とするよう交渉や勧誘する行為を少なくとも28回繰り返していた。

 社債発行の引き受けシェアが高くなるよう融資の条件を引き下げたり、公募増資の引き受けシェアを引き上げなければ融資期間を短縮する意向を伝えたりするなど悪質だった。こうした行為は広く継続されていたという。順法意識の欠如は甚だしい。

 銀行は通常、融資などを通じ顧客企業に対して優越的地位にある。この立場を乱用して系列証券会社の金融商品の購入を迫り、証券会社間の競争を阻害しないようにするのがファイアウオール規制だ。

 銀行と証券の相互参入が認められた1990年代に導入され、銀行業界の要求で段階的に緩和されてきた。

 三毛氏が20年から21年にかけて全国銀行協会長を務め、規制の緩和や撤廃を求めていたことは見逃せない。2年前にも、三井住友フィナンシャルグループのファイアウオール規制違反が問題になったばかりだ。

 銀行と証券の連携強化は顧客にもメリットがあるが、金融事業者が顧客の利益より自らの収益拡大を優先するようなら不正は繰り返される恐れがある。業界全体の問題として、おのおのの振る舞いを正してもらいたい。