「事業承継」より低ハードルなのにメリット十分…中小企業の引き際に「経営資源の引き継ぎ」という“第3の選択肢”

AI要約

中小企業の多くが将来的に廃業を予定しており、事業承継支援の取り組みが重要である。

従業員や販売先の引き継ぎが最も多く、経営資源の引き継ぎが中小企業の存続に役立っている。

経営資源を引き継いだ企業は少しずつ増加し、経営資源の引き継ぎは企業規模の拡大に繋がる傾向がある。

 (原澤大地:日本政策金融公庫総合研究所 研究員) 

■ 「経営資源の引き継ぎ」という選択肢

 将来的に廃業を予定している中小企業が増えている。当研究所が従業者数299人以下の中小企業に対して、2015年から4年おきに実施してきた「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」の結果によると、「自分の代で事業をやめるつもりである」と回答した中小企業経営者の割合は、2015年に50.0%、2019年に52.6%、2023年に57.4%と上昇している。

 中小企業の廃業は、雇用の減少、技術やノウハウの喪失、地域の生活インフラの崩壊など、経済社会に対してさまざまな影響を及ぼす。

 これを少しでも抑えるべく、官民を挙げて事業承継を支援する取り組みが進められているわけだが、なかには業績が振るわず事業承継できる状況になかったり、最初から事業承継をするつもりがなかったりする企業も存在する。

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 廃業による影響を抑えることはできないのかというと、必ずしもそうではない。引退する経営者には、事業承継のほかに、経営資源の引き継ぎという選択肢がある。

 一般に、企業は従業員、不動産、設備、製品・商品、販売先、仕入先、免許・資格など、さまざまな経営資源を保有している。もし事業をやめることになったとしても、これらの経営資源が他社に引き継がれ、有効に活用されれば、廃業の影響を抑えることができるだろう。

 今回は、2023年に当研究所が従業者数299人以下の中小企業に対して実施した「経営資源の引き継ぎに関する実態調査」の結果をもとに、中小企業における経営資源の引き継ぎの実態を紹介していく。

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■ 経営資源を引き継ぐ企業は少しずつ増加

 まずは、経営資源を引き継いだ企業の割合をみていこう。すでに事業をやめた企業のうち、他社や開業予定者、自治体、その他の団体などに、事業に活用してもらうために経営資源を譲り渡したことがある企業の割合は32.8%であった。

 当研究所では2017年にも同様の調査を実施しており、当時、経営資源を譲り渡したことがある企業の割合は29.9%であった。

 また、経営中の企業のうち、事業をやめたり縮小したりした企業から経営資源を譲り受けたことがある企業の割合は、2023年の調査では14.8%、2017年の調査では12.6%であった。経営資源を引き継ぐという選択肢は、中小企業のなかで少しずつ広まっているとみてよいだろう。

 なお、経営資源を引き継いだ企業は、引き継いでいない企業と比べて規模が大きい傾向にある。事業をやめることを具体的に考え始めた時点における平均従業者数は、経営資源を譲り渡したことがある企業で23.4人、譲り渡したことがない企業で8.0人となっている。

 また、調査時点における平均従業者数は、経営資源を譲り受けたことがある企業で18.2人、譲り受けたことがない企業で6.1人であった。一般に、企業規模が大きいほど保有している経営資源が多く、また経営資源を受け継ぐことが企業規模の拡大につながることを考えると、当然の結果といえよう。

■ 「従業員」「販売先」を引き継ぐ

 続いて、引き継いだ経営資源についてみてみよう。譲り渡した経営資源は、「従業員」(58.9%)の回答割合が最も高い(図1)。廃業によって従業員を路頭に迷わせてしまうことは避けたいという経営者の心情が読みとれる。

 次いで高いのが「販売先・受注先」(19.2%)である。こちらも、商品・サービスの提供を他社に担ってもらうことで、販売先・受注先への影響を抑えたいという配慮がうかがえる。

 譲り受けた経営資源をみると、やはり「従業員」(43.0%)の回答割合が最も高い(図2)。人手不足に悩む中小企業にとって、従業員の引き継ぎは人材を確保する機会になっているといえる。

 ほかにも、「土地や店舗・事務所・工場などの不動産」(41.1%)、「機械・車両などの設備」(38.3%)、「販売先・受注先」(36.3%)、「仕入先・外注先」(33.3%)など、さまざまな資源を譲り受けていることがわかる。