自衛隊と「姉妹になろうよ」がトレンドに? 広がる「姉妹部隊」提携とは何か ついに同盟国の枠を越え

AI要約

海上自衛隊がフィリピン海軍との「姉妹部隊」提携を検討中

姉妹部隊提携は相互理解を深めるための取り組みであり、日本とフィリピン間の関係強化を目指す

日比防衛協力はさらに進展する見通しで、共同訓練や協定の締結などが行われている

自衛隊と「姉妹になろうよ」がトレンドに? 広がる「姉妹部隊」提携とは何か ついに同盟国の枠を越え

 海上自衛隊自衛艦隊司令部が、フィリピン海軍部隊と「姉妹部隊」提携を結ぶ方向で検討しているようです。産経新聞が2024年7月1日に報じました。

 これは7月1日に海上自衛隊が創設70周年を迎えるにあたって、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」の艦内で記者会見を行った斎藤 聡自衛艦隊司令官が明らかにしました。同司令官によれば、この話は5月に行われた海上自衛隊とアメリカ、オーストラリア、韓国各海軍の司令官会合に、初めてオブザーバーとして参加したフィリピン海軍から持ち出されたものだとのことです。

 具体的にどの部隊が提携するかなどは決まっていませんが、斎藤司令官は「フィリピン海軍との関係を強化する上で非常に有効なものだ。早期に作っていきたい」と述べています。

 姉妹部隊とは、言わば「姉妹都市」の軍事組織版です。姉妹都市はお互いの交流を盛んにして、相互理解を進めるために提携するものですが、姉妹部隊協定を締結した部隊もまた、情報や意見の交換、勉強会や交流会などを開催し、お互いの組織や国に対する理解を深めていきます。

 日本人の感覚だと「『姉妹」ではなく『兄弟」ではないの?」と思ってしまうかもしれません。それについて公式な説明はありませんが、姉妹都市に関しては、1956年当時にアメリカ大統領だったアイゼンハワーが、戦後に疲弊した各国市民の交流を促すため運動を、「シスターシティー」として呼び掛けたという経緯があります。 都市名を表す際に英語、フランス語、ドイツ語などでは、女性名詞を使うことが多いためです。

 海上自衛隊や海軍も同様に、主兵装である艦艇には、フランス語などのヨーロッパ言語で女性名詞が与えられており、艦船を運用する部隊間の提携についても、「姉妹部隊」と呼ばれることになったのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 海上自衛隊はこれまで、唯一の同盟国で、日本に部隊を展開している在日アメリカ海軍との間で姉妹部隊提携を行ってきました。海上自衛隊のミサイル護衛艦「あしがら」とアメリカ海軍のドック型揚陸艦「ジャーマンタウン」(2021年9月にアメリカへ帰還)など、「シスターシップ」、つまり「姉妹艦艇」として艦艇間で提携するものでした。

 しかし近年では、同じ厚木基地を本拠地にテストパイロットを含む航空要員の養成を行う海上自衛隊の第51航空隊と、アメリカ海軍の第51海上攻撃ヘリコプター隊などの航空部隊や、やはり厚木基地に本拠地を置く地上部隊で、ともに固定翼哨戒機の整備を任務とする海上自衛隊第4整備補給隊と、在日アメリカ海軍の厚木基地航空機中間整備分遣隊など、艦船部隊以外にも姉妹部隊提携が広がっています。

 このように海上自衛隊と在日アメリカ軍の間の姉妹部隊は広がりを見せていますが、海上自衛隊がアメリカ海軍以外の組織と姉妹部隊提携を行う姿勢を見せたのは、フィリピン海軍が初となります。

 フィリピン海軍は南シナ海のアユンギン礁(英語名はセカンドトーマス礁)の領有を巡り、中国に大きな圧力を受けています。その対応のために、海上自衛隊との交流を深めることで、パイロットや船員の養成を強化する狙いがあるといわれています。

 これまでも、防衛省・海上自衛隊は2017年度から海上自衛隊が運用していたTC90練習機をフィリピン海軍に無償譲渡し、これを哨戒機として使用する同海軍の乗員訓練などを行って、海軍の強化に協力してきました。

 さらに日本政府とフィリピン政府は2024年7月8日、共同訓練をしやすくするための「円滑化協定」に署名しました。この協定により、訓練を行う際などの武器・弾薬の取り扱いや、事件・事故を起こした場合の裁判権などについてあらかじめ取り決められ、自衛隊とフィリピン軍の連携はさらに強化されます。ここ数年の日比の共同歩調ぶりを見ると、姉妹提携を含む防衛協力は、より一層進むことになると思われます。