「気づく力」は「人」が持っている…キーエンスが「デジタルとアナログの行き来」を重視する理由
キーエンスは営業利益率が驚異の54.1%で知られ、データ分析ソフトウェア「KI」の導入企業数も増加中。
同社は壁を乗り越えて進むため、データドリブンなアプローチを取っており、意思決定の柔軟性が強調される。
AIによるデータ分析においても、人間の経験と勘が重要であり、デジタルとアナログのバランスを重視している。
自動制御機器、計測機器、情報機器などの開発および販売を手掛ける、株式会社キーエンス。圧倒的な生産性で知られており、2022年度には、10%を超えれば優良企業だとされる営業利益率で驚異の54.1%という数値を叩き出した。また、数年前から販売を始めたデータ分析ソフトウェア「KI」の導入企業数は数百社にも上り、その勢いは留まるところを知らない。
ビジネスの最前線を走る同社は、社内外に何重にもそびえる壁をどのように乗り越え、あるいは壊して進んでいくのか?
「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」の初代受賞者である著者が、実際に変革を進めるキーパーソンたちに話を聞くことでその謎を明らかにする一冊『データドリブン・カンパニーへの道』(河本 薫著)より、一部抜粋してお届けする。
『データドリブン・カンパニーへの道』連載第8回
『キーエンス社員「エレベーターは扉に近い人から出ます」…社員全員が「風通しの良さ」を意識して合理性を追及』より続く
―これも日本の企業でよくある話ですが、一度決めたことを撤回するということは、決めたポジションの人にとっては不利益になるので、回避しようという動きにつながることもありますが、そうしたことはキーエンスさんでは問題にならない?
柘植そうですね。むしろ、ゴールに対してこのままではうまくいかないとわかったなら、変えないと逆にまずいという考え方が浸透しています。
―聞いていると当たり前のことをやっているように聞こえてきますが、実際には多くの企業でできていないと思います。
井上はい、当たり前と言えば当たり前のことなんです。
―今後、AIのデータの確度が上がっていけば、例えば営業でAIの出す答えは人間の勘と経験を包含してしまうのか、それとも人間の経験と勘の部分は残し続けるのか、その辺のお考えはどうでしょうか。
柘植人間の経験と勘をゼロにはできないし、すべきではないと思います。
―それは、あえてなのか、AIといえども限界があるよというお考えでしょうか。
柘植どちらとも言えます。データはパワフルな武器ですが、どれだけデータが増えても、世の中の森羅万象をすべてデータ化できるわけではありません。例えば、コロナ禍になったタイミングでは、データで捉えられないことが一時的に増えたので、みんなでわちゃわちゃ話をして情報共有する割合を意識的に増やしたりしました。
変化は人間のセンサーで察知して、それが本当に起きているかという検証はデータを使ったりというように、デジタルとアナログの行き来をとても大事にしています。
―やっぱりそうですね。気づく力というのは人が持っている力ですね。
『キーエンスの「KI」──ビジネスのゴールを起点に構想された実用的な分析ツール』へ続く