敢えて問う、駅は本当に「電車に乗るための場所」でいいのか

AI要約

将来の日本の人口減少に伴う影響と対策について解説。

鉄道会社が駅機能を強化し、街のコンパクトシティー化を進めることで新たな収益源を生み出す必要性。

人口減少社会において、鉄道会社が生活の利便性を提供する企業へ変貌を遂げるための施策。

敢えて問う、駅は本当に「電車に乗るための場所」でいいのか

国立社会保障・人口問題研究所が最新の将来推計人口を発表し、大きな話題になった。50年後の2070年には総人口が約8700万人、100年後の2120年には5000万人を割るという。

ただ、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。

ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。

※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。

人の動きが減るならばモノも運ぼうと新幹線などを使った貨物輸送への取り組みも見られる。需要はそれなりにありそうだが、鉄道利用者の減少をカバーするまでには至りそうにない。

大都市圏の鉄道会社が人口減少社会において鉄道事業を続けながら、新たな収入を確保しようとするなら、まずは駅の機能を強化することだ。有望な資産をうまく活用しない手はない。一人暮らしの高齢者が増えるにつれて、行政サービスの窓口や医療機関、福祉施設などが集中した生活必需サービスを一元的に受けられる「便利な場所」へのニーズは大きくなる。これまでのような乗り換えの便利さや商業施設の充実だけでなく、駅を「電車に乗るための場所」から周辺住民にとっての「便利な場所」へと生まれ変わらせるのである。

これまでの再開発といえば、都心のターミナル駅などで進められてきた。こうした都心型の再開発については新規計画もあるが、今後は郊外の主要駅がそれぞれにコンパクトシティーの拠点としての役割を求められる。これまでとは異なる収益を生み出す存在となれば、鉄道会社のビジネスモデルは大きく変わる。

1つの駅だけで整備が難しければ、沿線の複数の駅で「役割分担」してコンパクトシティーの機能を持たせるのでもよい。

私はこれまでいくつもの鉄道会社に招かれて経営陣と意見交換をする機会があったが、その際に沿線を1つの街と見立てて駅ごとに特徴立った開発をするよう勧めてきた。

例えば、医療機関が集中する駅、劇場や音楽ホールが集まる駅といった具合だ。こうすれば、高齢者も含めた沿線住民は駅の間を行き来するために鉄道を利用する機会が増え、通勤・通学定期券客の減少を補える。沿線住民向けの「生活定期券」をつくってもいい。

駅機能の作り替えとともに進める必要があるのが、駅を中心とした街の整備だ。今後は多様な働き方が広がることで一日中自宅周辺から離れることなく、仕事をし、家族とも過ごし、趣味やレジャーを楽しむといったライフスタイルの沿線住民が増える。

こうしたライフスタイルの変化によって生まれる新たなニーズに、さまざまな分野の他企業と連携して応えることである。こうした取り組みで衛星都市の住民が自分の住む街に愛着とプライドを持つようになれば、結果として鉄道に乗る人も多くなるだろう。街づくりへの積極的な参画は鉄道会社にとって鉄道収入に並ぶ新たな収益源となるだけでなく、沿線イメージの向上や駅が立地する街の価値を高めることにもなる。

人口減少という大激変にあっては、鉄道会社は人や荷物を運ぶ企業から人々の生活の利便性をプロデュースし、「新たな暮らし方」を創造して海外輸出する企業へと変貌を迫られるだろう。柔軟さなしには生き残れない。

つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。