日蓮宗総本山の身延山を訪ねて知った…「宿坊ビジネス」を海外観光客が絶賛しているワケ

AI要約

山梨県身延山の日蓮宗総本山で行われる朝のお勤めや宿坊での滞在体験について語られる。

中国や香港、台湾からのツーリストが身延山を訪れ、伝統的な日本の文化や静かな雰囲気に魅了される様子が描かれる。

身延山での宿坊ビジネスや文化体験を推進する株式会社シェアウィングの取り組みと将来の期待が述べられる。

日蓮宗総本山の身延山を訪ねて知った…「宿坊ビジネス」を海外観光客が絶賛しているワケ

静まり返った早朝5時。700年以上の歴史を有する日蓮宗総本山である山梨県身延山の久遠寺では、毎朝ひとりの僧侶によって大鐘が突かれ、その大音響は山々に響き渡る。その作法は見事というよりほかなく、若い僧侶は自分の身体を撞木の一部であるかのように後方へ大きくしなって反り返し、その反動で全身の力をこめて一気に突くのである。さながら現代舞踊のような身のこなしで、思わず見とれてしまうほどだ。

その後、本尊が安置された本堂に入ると、30名近い僧侶たちが入堂。法要が始まり、一斉にお経が唱和されるのだった。

筆者はこの春、こうした荘厳な「朝のお勤め」を10数名の中国や香港、台湾のツーリストたちと体験した。

彼らインバウンド客と一緒に参加したのは、さくらツーリストという旅行会社が催行した「世界遺産富士を望む!750年の歴史を誇る身延山でウェルビーイングバスツアー(中国語)」だ。

鎌倉仏教のひとつである日蓮宗総本山の身延山を訪ね、久遠寺を参詣し、その境内や日蓮聖人の御廟所などを散策。朝のお勤めを体験し、精進料理をいただいた。

このツアーがユニークなのは、もともと仏教寺院や神社などで僧侶や氏子、講、参詣者のために用意された宿泊施設である宿坊にステイすることだ。

身延山には久遠寺を支える31の寺院があり、そのうち20が宿坊として参詣客を受け入れている。宿泊したのは「端場坊(はばのぼう)」という宿坊だった。広い畳の間に布団が敷かれていた部屋が参詣客用の客室で、ダシにも一切動物性のものを使わない、手の込んだ精進料理が提供される。

今回台湾から参加した日本留学経験者で、ツアーガイドなども務めたことのある日本通の女性は「これまで日本に何度も旅行に来たが、今回ほど心が洗われる体験はなかった」という。

京都在住で、国内の名城を40以上訪ね、高野山の宿坊にも泊ったことがあるという香港出身の女性は、「Shiori詩織」というハンドルネームで、日本各地の伝統文化をインスタグラムで発信している。彼女と境内を一緒に歩きながら話をしたが、「中国や香港にもたくさんの寺院があるけれど、どれも派手な真っ赤な色彩で染められ、境内も騒々しく、日本のような静寂な雰囲気はない。ここに来ると癒されます」と話す。

一般の日本人よりはるかに多く全国各地を訪ね、文化的な体験を重ねている外国人やインフルエンサーに出会うことがたまにある。彼女は事前に見延山に関するさまざまな背景情報や名物土産などを調べていた。日本の寺社の歴史や宿坊の作法にも詳しいので、筆者は多くのことを彼女から教えられた。

このツアーを企画したのは、日本各地に点在する城や社寺を活用したユニークな体験型宿泊コンテンツを創設している株式会社シェアウィングだ。

同社が提供する『OTERA STAY(お寺ステイ)』は、寺社を起点とした滞在や体験サービス、さまざまなコンテンツやイベントの提供と運営を行う事業で、現在岐阜県高山市や長野県の善光寺、京都府綾部市、東京都港区など、全国で9拠点、13の宿坊を運営している。

なかでも身延山では、武井坊、志摩坊、岸之坊、松井坊、端場坊という5つの宿坊を運営し、山全体のブランディングに取り組んでいる。これは観光庁の推進する「城泊・寺泊による歴史的資源の活用事業」と連携している。外国客が大都市圏や一部の観光地のみに集中するオーバーツーリズムのような、極端に偏りのある日本のインバウンドの現状を変えていくための地方誘客の促進につながる事業として宿坊ビジネスは期待されているのだ。