トヨタ会長の年間報酬「16億円」は高いのか、安いのか

AI要約

トヨタ自動車の豊田章男会長の昨年度の役員報酬について16億2200万円という数字が注目を集めている。

会長の報酬は固定報酬と業績連動の株式報酬からなり、株主総会で決定される仕組みについて解説が行われている。

記事の筆者は自動車産業の重要性を指摘し、役員報酬の増額や従業員の報酬の向上を提案している。

トヨタ会長の年間報酬「16億円」は高いのか、安いのか

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「トヨタ会長の年間報酬」について。

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トヨタ自動車・豊田章男会長の昨年度の役員報酬は16億2200万円だった。前期が9億9900万円だったためか、あるいは10億円超えのインパクトゆえか注目をあびた。

有価証券報告書を確認した人はほとんどいないと思われるが、正確には約3億円が固定報酬、その他は業績連動で、大部分の約10億円相当が株式による報酬となっている。なお報酬等の総額が1億円以上の役員は7人いるとされ、会長がもっとも多い。

この手の話、感想はきっと読者の立場に依存するだろう。最新期は売上高45兆円で当期利益は約5兆円だった。経営こそが企業の価値を創ると信じる者は、16億円だって安いじゃないかと思うだろう。テスラの株主総会ではイーロン・マスク氏への560億ドル(約9兆円)の報酬を承認したではないか、と。

その一方で、一般的な会社員の平均給与458万円とくらべて格差社会が広がっているとか、トヨタグループの不正事件をとりあげて「もらいすぎなんじゃないか」と思う人もいるだろう。

原則でいえば、会社は株主のものである。株主は自身の資本を最大化してくれる経営者を望む。そこで株主総会で取締役を選び、役員報酬の総額や業績連動の方針を承認する。

安い金額では優秀な人材が経営を担ってくれないかもしれない。ただし取締役の側も、業績が芳しくなければ次は選任されなくなる。

また、株主総会で承認された後も監視は続く。たとえば米国(ニューヨーク証券取引所上場規制)では社外取締役を中心とする報酬委員会を設置し、取締役の報酬を決定する。その決定に問題があれば報酬委員会も責任を負う。

なお、トヨタ自動車は「報酬案策定会議」を設置している。これは先に紹介した米国の規制とは少し異なるものの、メンバー6人のうち4人は社外取締役で、報酬案を取締役会に提案する。ただしこれはあくまで「提案」であり、意思決定は取締役会が行う。

取締役の報酬が不当であると主張する人は、同社の株主でなければならず、また具体的にどこが機能していなかったかを示す必要がある。逆に言えば、違法行為がなく株主が満足しているのなら外部がとやかく言う必要はないといえる。

とはいえねえ......。新NISAがはじまった現在では、インデックスファンドを通じて、同社の株式を間接的に取得している人も多いしねえ。

ここからは個人的意見。いろいろ批判はあるけれど、自動車各社が日本の屋台骨であるのは間違いない。日本は鉱物性燃料を買って、自動車や半導体を売って儲けている。その余剰がなかったらエネルギーや食料が買えない。

日本は落ちぶれたというが、それでも個人金融資産の総額は2100兆円超。まだ世界トップ5以内の経済大国なのは、自動車各社が日々、信じられない金額の付加価値を海外に販売しているからだ。だから私は、自動車産業の役員報酬をもっと高くし、従業員の報酬も高額にしてほしいと思う。それこそがジャパニーズドリームではないだろうか。

そうそう。自動車各社はキャッチフレーズに「Dream」をよく使う(「Drive Your Dreams.」「The Power of Dreams」等)。人手不足時は報酬が良い業界が訴求性をもつ。次の就活学生へのフレーズは「Driven by Big Money.」で決まり。

写真/時事通信社