日本からGAFAMは生まれなくていい。それでも「賃上げ機運を本物にできるか」で未来は決まる──経済同友会・新浪剛史氏インタビュー
春闘に続き、夏季賞与が前年比増となり、共助資本主義の重要性が注目される中、経済同友会が新プロジェクトを展開。
経済同友会代表幹事はインフレ時代に起こり得る変化と、賃上げの必要性について語る。
賃上げ機運は2025年以降も続くべきであり、賃金の上昇を促進する新たなノルムを築く必要がある。
満額回答が相次いだ春闘に続き、夏季賞与(ボーナス)は企業の約4割が前年比増となった。長期にわたるデフレ時代が終焉(しゅうえん)し、インフレ時代が到来するなか、過去の失敗を繰り返さないための新たな資本主義が注目されている。中でも経済同友会は2023年4月に「共助資本主義」を打ち出し、NPOやスタートアップとともに新プロジェクトを次々と立ち上げている。
経済同友会代表幹事でサントリーホールディングス社長でもある新浪剛史氏に、インフレ時代に起こり得る変化と共助資本主義の重要性について聞いた。
(聞き手・Business Insider Japan共同編集長 高阪のぞみ、文・湯田陽子、撮影・伊藤圭)
── 2023年に始まった賃上げ機運がここへ来て加速しています。
約20年にわたるデフレ下で、日本企業はコストカットに力を注ぎ、社員や非正規雇用の賃金を抑える策をとってきました。
私はローソンの社長だった11年前から、政府の経済財政諮問会議、産業競争力会議、未来投資会議などの場で賃上げが必要だと言い続けています。
経済同友会も同様で、ベースアップでなくてもいいから業績が上がった会社は賃金を上げていこうと動いてきたんです。
それは、このままだと社会が行き詰まってしまうと思ったから。コストカットだけではイノベーションは生まれません。コストカットに長けた人が経営者になり、新しいものを生み出す気概のある経営者が減ってしまうのではという危機感もありました。
── 賃上げ機運は今後も続くと見ていますか。
2025年は企業の本気度が試される年になるでしょう。企業は本気で賃金を上げようとしているのか。教育・研修も含めて人に本気で投資するのか。
世帯収入は上がってきているものの、まだインフレ率を上回る賃上げにはなっていません。だからこそ、この機運を2025年以降も止めてはいけない。賃金は上がるというノルム(社会通念)を我々企業がつくっていかなければなりません。
── 若い世代は賃金が上がる時代を経験しておらず、新たなノルムに実感を持てないのではないかと思います。
大前提として言えるのは、日本はいま深刻な人手不足に陥っており、人手不足で賃金が上がるのは当たり前だということです。
これからは、物価が上がれば賃金も上がるという循環を生み出していく必要がある。来年だけでなく、恒常的に上がるようにしていきたいと思っています。
── 中小企業についてはどうでしょうか。
経済の好循環を実現するには、雇用全体の約7割を占める中小企業の賃上げがキーになると思います。
大企業でも賃上げしないと人を引き留めることが難しくなっているので、もともと人材流動性が高かった中小企業間で、より高賃金の企業への人材流出が加速するでしょう。その結果、生産性が高く良い経営をしている企業、端的に言えば持続的に賃上げの原資を生み出せる企業だけが生き残ると思います。