大企業の経常利益「4年で2倍」、日本版“強欲資本主義”の実態を法人企業統計で解き明かす

AI要約

春闘での賃上げ率が5%を超えているが、実際には中小企業の賃金水準はそれほど上がっていない。

大企業と中小零細企業の賃金格差が拡大し、実質賃金は緩やかに上昇している。

大企業の粗利益は増加しており、資本装備率の違いが賃金水準の差を説明できない状況にある。

大企業の経常利益「4年で2倍」、日本版“強欲資本主義”の実態を法人企業統計で解き明かす

● 春闘賃上げ、5%超えの「真実」 日商調査で中小企業は3.62%

 企業の収益好調を反映し画期的な賃上げが実現していると言われる。

 連合が6月5日公表した直近の集計(3日時点)では賃上げ率は5.08%と先月集計から0.09ポイント下がったが、依然として5%を超えており1991年以来の33年ぶりの高水準を維持している。

 また日本商工会議所が会員企業への初めての調査結果を5日公表したが、4月時点の1年前に対しての賃上げ率は3.62%と、大手企業ほどではないが、そこそこの賃上げ率だ。

 しかし実際には、その恩恵にあずかっていない人も多いのではないか。

 法人企業統計調査を用いて、企業の利益拡大の中身や賃上げの実態を分析すると、価格転嫁の要因が大きいことが浮き彫りだ。

● 従業員一人当たりの賃金の伸び 大企業は1.1倍。中小零細と格差拡大

 ここでは、法人企業統計調査の従業員1人当たり人件費を「賃金」と呼ぶことにする(注1)。そして「全規模」、「大企業」(資本金10億円以上)、「中小零細企業」(資本金1000万円以上、1億円未満)の区分で分析する(なお金融機関は含まれていない)。

 2018年から、直近公表の24年1~3月期までの推移を示すと、図表1のとおりだ。賃金水準は大企業が最も高く、中小零細企業が最も低い。そして全規模がその中間になる。

 どの範疇でも、全期間を通じてあまり大きな変化は見られないが、大企業は22年以降、緩やかに上昇している。それに対して、零細企業、全規模ではほとんど一定だ。

 24年1~3月期の水準を19年同期と比べると、大企業では1.1だが、中小零細企業では1.03にとどまる。全規模では1.05だ。これでは、ここ数年の物価上昇にとても追い付かない。毎月勤労統計調査によると、実質賃金は25カ月連続して下落している。

 つまり、賃金が上昇しているというが、それは大企業のことであって、経済全体では顕著な賃金上昇は生じていないことが分かる。

 賃金水準にはもともと企業規模による格差があり、しかも伸び率でも格差があるのだから、企業規模による賃金格差は拡大した。大企業と中小零細企業の賃金水準の比は、18年1~3月期には1.74だったが、24年1~3月期には1.85に拡大した。

 以上はしばしば指摘されることだが、法人企業統計調査の数字によっても、それが裏付けられることになる。(この数字は24年春闘結果がすべては反映されていない)

● 従業員1人当たり粗利益、大企業は2割増 大企業は転嫁できるが中小零細はできない

 企業規模による賃金水準の違いが生まれるのは、なぜか?

 以前からあった賃金水準の差は、資本装備率(従業員1人当たりの固定資産額)の差で説明できる。大企業では資本装備率が高いのに対して、中小零細企業では低いのだ。

 しかし、資本装備率は数年の間に大きく変化するわけではないので、ここ数年の賃金上昇率の差は資本装備率によっては説明できない。

 そこで、従業員1人当たり粗利益(売上高-原価)の推移を見ると、図表2に示すように、大企業で顕著に増加していることが分かる。2020年頃には400万円程度だったものが、24年では500万円程度になっている。この間に2割増えたことになる。これは著しい増加だ。