TDK「エネルギー密度100倍」の全固体電池、材料開発。元祖大学発ベンチャー、2兆円企業のポートフォリオ改革力

AI要約

TDKが従来品よりも100倍エネルギー密度の高い全固体電池の材料を開発したと発表。

全固体電池は自動車メーカーの期待を集める代替電池で、高い安全性と大容量性が特徴。

TDKは小型電池向けにも全固体電池を展開し、将来的にはサンプル品の出荷を目指している。

TDK「エネルギー密度100倍」の全固体電池、材料開発。元祖大学発ベンチャー、2兆円企業のポートフォリオ改革力

電子部品メーカーとして知られるTDKが、従来品よりも100倍エネルギー密度の高い「全固体電池」の材料を開発したと6月17日、発表した。

全固体電池といえば、電気自動車用(EV)に搭載するリチウムイオン電池の代替電池としての期待の高さから、トヨタや日産など、自動車メーカーが開発に力をいれる素材として注目されることが多い。その名の通り、全てが固体でできているという特徴から、燃えにくく安全性が高く、大容量化への期待も大きいがゆえのことだ。

TDKによると、全固体電池の需要はIoT機器やウェアラブル端末などに使われる小型電池にも同様に存在するという。矢野経済研究所は、小型全固体リチウムイオン電池・薄型電池の世界市場規模は2030年までに988億円とも試算している。

実際TDKでは、2017年に世界初となる充放電可能な小型の全固体電池「CeraCharge」を発表。

具体的な販売実績については公開できないとしたものの、耐熱性が高く高温下でも安定的に動作するという特徴から、料理用温度計など、従来では考えにくかった用途で使用するケースも生まれていると、TDKの担当者は語った。

今回TDKが開発した素材は、その次世代材料。従来品の約100倍となるエネルギー密度1000Wh/Lを実現した。TDKの担当者は、「ずっと高いエネルギー密度の電池の需要があり、その開発を続けてきた」という。

まだ材料開発段階であるため、実際に製品化するためには、多積層化やパッケージ、動作温度範囲の拡大など、デバイスに落とし込むための開発が必要になるという。

「ワイヤレスイヤホンや補聴器、スマートウォッチなどの各種ウェアラブルデバイスのほか、既存のコイン電池を代替する製品を目指して鋭意開発を進めてまいります」(担当者)

として、2025年にもサンプル品の出荷を目指すとしている。

TDKは、もともと東京工業大学で研究が進められていた電子材料である「フェライト」を事業化するために1935年に創業した、元祖大学発の研究開発型(ディープテック)ベンチャーだった。現在は、直近2024年3月期の売上高が2兆円を上回り、従業員も世界で10万を超えるグローバル企業だ。

TDKと言えば、1960年代に開発したカセットテープや、ビデオテープの記録媒体である磁気テープ事業が注目の的に。今でも、TDKといえば「磁気テープ」を想像する人は多いだろう(磁気テープ事業からは2014年3月末に撤退している)。その後、1990年以降はパソコンのHDDに使われる磁気ヘッドなどの事業が拡大。近年は、EVに搭載する電子デバイスの販売や、2010年頃から成長してきた小型の電池事業などが収益の柱として成長している。既存技術に新しい技術を組み合わせながら、事業ポートフォリオを少しずつ変化させることで、これまで成長を繰り返してきた。