ガルーチ元次官補「失敗・誤判断が北東アジアに核戦争招く可能性も…対話が必要」

AI要約

北朝鮮の核開発初期、核交渉の主役だったロバート・ガルーチ元米国務省次官補は、核戦争の危険性に警鐘を鳴らし、抑止と対話の両面を重視する必要性を強調している。

ガルーチ元次官補は、北朝鮮が核を放棄することは難しいが、今後の核開発を中止する可能性はあると述べており、南北・朝米関係の改善が重要であると指摘している。

また、トランプ政権による同盟体制の変化やロシアと北朝鮮との関係に懸念を表明し、北朝鮮の非核化に向けた現実的なアプローチ方法を提案している。

ガルーチ元次官補「失敗・誤判断が北東アジアに核戦争招く可能性も…対話が必要」

 北朝鮮の核開発初期、核交渉の主役だったロバート・ガルーチ元米国務省次官補は、韓国と米国が北朝鮮に対して強対強で抑止だけを強調した場合、誤った判断によって北朝鮮との北東アジア核戦争が起きる可能性を排除できないとし、抑止とともに北朝鮮との対話の道を探らなければならないと強調した。

 済州フォーラムに参加しているガルーチ元次官補は30日、西帰浦(ソグィポ)の済州国際コンベンションセンターで記者団に応じ、「北朝鮮がすでに持っている核を放棄する可能性はないが、これ以上の核兵器を開発しないことには同意しうる」としたうえで、「南北・朝米関係の改善においては、北朝鮮が安心できる環境を作ることが重要だ」と述べた。

 ガルーチ元次官補は、今年の米国大統領選でトランプ氏が勝利した場合、同盟に対する信頼度が低下し、韓国と日本が6カ月以内に独自の核武装の道に進む可能性もあるとしながらも、「韓米同盟と日米同盟は条約に基づく同盟であるため、トランプ氏が思いのままにできるものではない」と述べた。韓国に戦術核を再配備しようという主張は「悪い考え」だと一蹴した。

-今年1月に「北東アジアで今年、核戦争が起きる可能性がある」と警告する文を発表したことがある。今でも戦争の危険性があると考えているのか。

 「米国は北朝鮮に対する抑止を強調するが、抑止は失敗する可能性がある。誤った判断や失敗が生じることもあり、人工知能(AI)による誤った判断で戦争が起きる可能性もある。北朝鮮が敵対的発言と行動を続け、韓国と米国も強対強、行動には行動での姿勢で対抗すれば、核戦争が起きる可能性がある。こういうことを警告するために書いた。北朝鮮は現時点ではそのような能力を持っているとはみられないが、北朝鮮が米国本土に対する攻撃を行い、中国がそれに関与する場合、戦争拡大の可能性が高いため、それを防ぐ代案を用意しなければならない。抑止がすべての解決策にはなりえず、最終的には対話をしなければならない」

-最近、米国の共和党議員が朝鮮半島に戦術核を再配備する必要があると主張していることをどう思うか。

 「韓国に戦術核を再配備することは、韓国、北朝鮮、米国のいずれにとっても望ましくない。北朝鮮はすでに核兵器を保有している。米国が韓国に戦術核を再配備した場合、北朝鮮がそれを先制攻撃しないという保障がない。このような状況を考慮すれば、韓国に戦術核の再配備を主張するのは悪い考えであり、韓国の安全保障の状況をまともに考慮しないものだ。米国は韓国に拡張抑止を約束し、核共有に近い核協議グループ(NCG)を稼動することも約束した。これに加えて、米国はこの地域に多くの潜水艦をはじめとする海上搭載戦術核兵器を保有している。これを通じて、十分に北朝鮮を抑止できる。核兵器を使えば北朝鮮の体制は生存できないことを北朝鮮はよく知っていると思う」

-ドナルド・トランプ前大統領が政権をふたたび握った場合、同盟体制が弱まり、韓国が独自の核武装に進むとみるか。

 「トランプが再選して米国大統領に再任した場合、韓国と日本が6カ月以内に核武装に進む恐れがある。トランプは韓国と日本との同盟を重視しておらず、韓国や日本などの同盟国では米国の安全保障の公約に対する確信が弱まるため、韓国と日本が最終的に独自の核武装に進む可能性も高いとみる。トランプの行動パターンをみると、韓国や日本などが米国にただ乗りしていると主張しており、在韓米軍と在日米軍に対してもあまり関心はないだろう。しかし、韓米同盟と日米同盟は条約に基づく同盟であり、これらの国々の安全保障は米国にとって死活問題だ。この同盟は米国が一方的にこれらの国々の助けになっているのではなく、相互依存的であり、同盟国が米国に与える助けも大きい。トランプの行動を予測することは難しいが、米国の全般的な世論は同盟国を重視しているため、トランプが思いのままにできるものではないと考える」

-北朝鮮の非核化は今でも可能か。

 「30年前、金日成(キム・イルソン)が北朝鮮の指導者だったとき、私は北朝鮮のカン・ソクチュ第一副外相を相手に北朝鮮と核交渉を行った。当時を振り返ると、私は少しナイーブだった。北朝鮮が非核化の意志があったのかについて、当時の米中央情報局(CIA)は北朝鮮の寧辺(ヨンビョン)の核施設については把握していたし、われわれの交渉は北朝鮮のプルトニウムの核開発に対するものだった。しかし、われわれはその頃すでに北朝鮮がパキスタンから遠心分離機の技術を持ち込み、秘密裏に高濃縮ウランを開発していることをすぐに知ることになった。北朝鮮の非核化の意志は信じることはできない。金正恩(キム・ジョンウン)委員長がすでに保有している核兵器を放棄する可能性はない。だが、これ以上の核兵器は開発しないことには同意できるはずだ。ただし、核保有国と核兵器を保有している国は区別しなければならない。核拡散防止条約(NPT)が公認する核保有国は米国、英国、中国、ロシア、フランスだけだ」

-ならば北朝鮮核問題を解決するための代案は何か。

 「北朝鮮の立場としては、自分たちはすでに核兵器を保有する国であり、核を放棄するための対話や交渉はしないという立場だ。それにいちいち反論していたら交渉の余地はなくなる。大きな枠組みで、朝鮮半島と北東アジア地域に核兵器がない世界が実現されることが望ましい。何より、南北、朝米関係が改善されなければ、北朝鮮の非核化が実現されるかは懐疑的だ。北朝鮮に核を放棄させるためには、北朝鮮が安心できる環境が作られなければならない。北朝鮮の立場も推しはかることが重要だ。(韓米が)一方的に進めてはならない」

-北朝鮮は、もはやこれ以上南北・朝米関係を重視せず、ロシアと密着して安全保障問題を解決しようとしているようにみえる。ロシアが北朝鮮に先端軍事技術を提供する可能性が高いとみるか。

 「北朝鮮とロシアの協力は非常に懸念される。ロシアは最近、国連安保理の対北朝鮮制裁専門家パネルに拒否権を行使するなど、北朝鮮に対する制裁を弱めている。北朝鮮とロシアが軍事技術に対してどのような協力をしているのかについては、正確にはわからない。しかし、3つの点を懸念して注目しなければならない。1つ目は、爆発力を高める核弾頭の設計について、北朝鮮には精巧な技術が足りないが、北朝鮮はロシアからそれを確保できる。2つ目は、生物兵器と化学兵器の技術提供も懸念しなければならない。3つ目は、核兵器の運搬手段である弾道ミサイル技術だ。北朝鮮、イラン、パキスタンの弾道ミサイル技術は、ロシアから広がったものだ。北朝鮮は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が大気圏内に再突入する際に核弾頭を保護できる技術に関心を持つだろう。このような点に対する朝ロの技術協力を鋭意注視しなければならない。”

-バイデン政権では北朝鮮との交渉が完全に中断し、北朝鮮は核とミサイルの能力を大幅に増強した。バイデン大統領が再選した場合、また北朝鮮との協議に入れるだろうか。

 「米国の国家安全保障補佐官と国務長官は、外交政策においてコストとリスクを考慮する。今の状況をみると、ロシアのウクライナ侵攻、ハマスのイスラエル侵攻、イスラエルのガザ侵攻、台湾の偶発的な事態の可能性に集中しており、北朝鮮に対して集中する余力はなかった。バイデン政権が2期目も続くのであれば、そのときには北朝鮮問題に集中してほしいと思う。韓国と協調すると同時に、北朝鮮に一方的に非核化せよと要求するのではなく、関係を正常化しようと言って北朝鮮を安心させてこそ、非核化も進展させることができる。それがより現実的なアプローチ方法だ。北朝鮮との関与が優先だと考える」

-韓国と中国が韓中安全保障対話を新設した。中国が望ましい役割を果たすと期待するか。

 「現時点では北朝鮮の強硬な態度は非常に懸念されるが、韓中が外交安全保障対話を新設し、安保問題について対話することにしたのは望ましい。中国が北朝鮮の態度を和らげる役割を果たすことに役立つ」

西帰浦/パク・ミンヒ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )