「大統領夫人捜査」を阻止する「破壊の検察人事」…検察改革への圧力高まる

AI要約

先週の出来事の中で最も驚くべき事件は、検察の人事でした。政府の検事長級人事について「事件」という言葉を使うのは、人事の時期と内容が異例であり、波紋が大きかったからです。

検察庁法に基づき、検事の人事は大統領が行いますが、今回の人事が妨害行為であるとされると問題が生じました。関係者の発言や沈黙も話題になりました。

大統領夫妻の意向と検察の動向に注目が集まる中、キム・ゴンヒ女史の捜査は変わらないべきだとの主張がなされました。

「大統領夫人捜査」を阻止する「破壊の検察人事」…検察改革への圧力高まる

 先週の出来事の中で最も驚くべき事件は、検察の人事でした。政府の検事長級人事について「事件」という言葉を使うのは、人事の時期と内容がそれだけ異例であり、波紋が大きいためです。

 検事の人事権は大統領にあります。憲法第78条は「大統領は憲法と法律が定めるところにより公務員を任免する」と定めています。検察庁法第34条は「検事の任命と補職は法務部長官の提請を受け大統領が行う」と規定しています。憲法と法律に基づき大統領が人事権を行使しているのに何の問題があるのかと思うかもしれません。しかし、その人事権の行使が配偶者の犯罪疑惑捜査を妨害するためのものだとすれば、話が違ってきます。憲法と法律が与えた大統領の権限を私的利益のために行使したことになるからです。

■「キム・ゴンヒ女史の捜査、法と原則通りに?」

 あまりにも敏感な事案であるためか、人事直後から大統領室、法務部、検察関係者の発言と表情一つ一つが大きな関心を集めました。大統領室は沈黙を守っています。検察の人事そのものはもちろん、今回の人事がキム・ゴンヒ女史を守るためという批判に対しても全く立場も示していません。そうするしかないでしょう。

―昨日の検察人事について、総長と事前調整はありましたか。

 「昨日断行された検事長の人事は…(しばらく沈黙してから)これについては、発言を控えさせていただきたいと思います」

―龍山(ヨンサン:大統領室)との対立説が取りざたされていますが、どう思いますか

 「私がお答えできることではございません」

―キム・ゴンヒ女史の捜査方針に歯止めがかかるのではないかという懸念がありますが。

 「どの検事長が来ても捜査チームと意を共にし、一切他のことは考慮せず、ひたすら証拠と法理に従い原則通りに捜査していきます。私は検事たちを、捜査チームを信じております。人事は人事で、捜査は捜査です」

 検察庁法によると、検事の人事は法務部長官が提請することになっています。パク・ソンジェ法務部長官が16日朝、出勤途中に記者団とこのようなやり取りをしました。

―今回の人事を大統領室が主導したという疑惑についてどう考えますか。

 「それは長官をあまりにも無視するものではないでしょうか。人事提請権者として長官が十分に人事案を作り進めるものであって、大統領室の誰が進めたというのですか」

―キム・ゴンヒ女史の捜査を考慮した人事ともいわれていますが。

 「この人事で、その捜査が終わりましたか。違うではありませんか。捜査はこれまで通り進められるでしょう」

 イ・チャンス新ソウル中央地検長も16日朝、出勤途中に記者団の質問に答えました。

―今回の人事で、ブランドバッグ受け取り疑惑など、キム・ゴンヒ女史の捜査に支障をきたすのではないですか。

 「人事に関係なく、私たちがやるべきことは法と原則に従って進められると思います」

―キム・ゴンヒ女史を呼んで取り調べる可能性はありますか。

 「具体的な部分について申し上げるのは、今の段階では難しいですが、業務を早く把握して捜査に必要な十分な措置を取るつもりです」

 イ・ウォンソク総長、パク・ソンジェ長官、イ・チャンス地検長の言葉通りなら、人事後も検察のキム・ゴンヒ女史への捜査は変わってはならないです。果たしてそうでしょうか?

■検察の人事後、153日ぶりに姿を現した

 人事はメッセージです。民間企業でも「オーナー」や代表取締役は人事を通じて組織にメッセージを伝えます。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は今回の人事を通じて、検察にキム・ゴンヒ女史の捜査をやめろというメッセージを出したのも同然です。検事も人間です。尹錫悦大統領の意向が何なのかが明らかなのに、キム・ゴンヒ女史の捜査を進めることができるでしょうか。

 法務部は検事長級に続き、中間幹部級の後続人事を急いでいます。キム・ゴンヒ女史のブランドバッグ受け取り疑惑を捜査中のキム・スンホ・ソウル中央地検刑事1部長とドイツモータースの株価操作疑惑を捜査中のチェ・ジェフン反腐敗捜査2部長が交代されるかどうかに関心が集まっています。二人は昨年9月に赴任しました。もし二人が交代されれば、尹錫悦大統領がキム・ゴンヒ女史の「捜査中断」メッセージに釘を刺すことになります。

 今回の人事がどれほど無理なものなのかは、さまざまなメディアの報道でも確認できます。人事翌朝付け新聞の社説の見出です。

 「最側近に任せた『キム・ゴンヒ捜査』、尹大統領はするなというのか」(京郷新聞)

 「検察『キム女史捜査』の指揮部電撃交代、なぜ今何のために…」(東亜日報)

 「キム女史の捜査指揮ラインを電撃的に交代、必ず今やるべきだったのか」(朝鮮日報)

 「微妙な時期に疑念抱かせた検察幹部人事」(中央日報)

 「『キム・ゴンヒ捜査ライン』全員交代、捜査するなというシグナルでは」(ハンギョレ新聞)

 「『親尹』中央地検長の人選…キム女史の捜査もみ消しになってはならず」(韓国日報)

 「朝鮮日報」はこの社説では足りないと思ったのか、15日付にも「国民が信じて任せた権力を妻の保護に使うという国民の批判」という見出しの社説を載せました。16日付にはキム・チャンギュン論説主幹が「大統領夫妻の頼みの綱、後輩の検察が握っている」というコラムを書きました。17日付にはチェ・ジェヒョク政治部長が「イ・ウォンソク(検察総統の)『7秒間の沈黙』の意味とは」というコラムも掲載されました。「中央日報」は15日付にイ・サンオン論説委員が「検察の正常化は夢だったのか」というコラムを書きました。「東亜日報」は16日付に「黙殺されたイ・ウォンソク検察総長の『7秒間の沈黙』」という社説を載せました。

 今回の人事に対する最も型破りな評価はマスコミではなく、ホン・ジュンピョ大邱(テグ)市長から出ました。ホン市長は人事の翌日、フェイスブックへの投稿でこのように主張しました。

 「自分の女も守れない人が、5千万の国民の生命と財産を守ることができますか。あなたなら、違法かどうかが捜査中で不明なのに、自分の女を自分の地位を守るためにハイエナの群れに差し出すでしょうか。尹大統領の立場に立って考えてみてください。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が大統領候補時代、義父の左翼経歴が問題になった時、どのように対処したのかを思い返してください。それは庇護ではなく、男の中の男が守るべき最小限の道理です。非難されても、男らしく振る舞わなければなりません」

 どうですか。一見すると、尹錫悦大統領をかばっているようですが、実は尹錫悦大統領がキム・ゴンヒ女史をかばうか目に今回の人事を行ったという疑惑を、既成事実として釘を刺したのも同然の発言です。ホン市長の「男の中の男」発言は数日間「巷で話題」でした。

 そんな中、当のキム・ゴンヒ女史は今月16日、カンボジアのフン・マネット首相夫妻との公式昼食会に出席しました。153日ぶりに公の場に姿を現したのです。キム・ゴンヒ女史の絶妙な登場時点は、今回の論争を正面突破するという大統領夫妻のメッセージが込められているようです。

■国民が感じる大統領のメッセージ「検察改革」

 この辺で一つとても気になることがあります。尹錫悦大統領にとって一体検察とは何でしょうか。

 尹錫悦大統領は一時「検察主義者」と評されました。2019年のチョ・グク元法相事態の最中です。彼は司法試験8浪の末に検事になりました。検事の目で世の中を読み解きました。検事の心臓で政治権力と検察首脳部に立ち向かいました。検察は彼の人生の「すべて」でした。そんな単純さと情熱で政治の世界に飛び込み、大統領に当選しました。

 そんな彼が大統領になってからは検察を統治の道具として活用しています。朴正煕(パク・チョンヒ)政権や全斗煥(チョン・ドゥファン)政権がそうだったように。検察は野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表を文字通り誇りが出るまで叩きました。無理に逮捕状を請求し、棄却されました。ついには検察をキム・ゴンヒ女史を守るための盾として使い始めました。検事たちプライドを踏みにじってまでです。一時、検察主義者だった人が「検察ブレーカー(破壊者)」に変わったのです。検察を裏切ったのです。

 興味深いのは、尹錫悦大統領のこうした変身が検察改革の必要性と不可避性を強化する圧力として働いているという事実です。1987年の民主化以降、大統領は検察改革を試みましたが、いずれも失敗に終わりました。任期5年の選出権力である大統領よりも、非選出権力である検察の組織力がより強大だったからです。

 ところが、もしかしたら尹錫悦大統領が結果的に「検察改革をやり遂げた」大統領として歴史に記録されるかもしれません。民主党のキム・ヨンミン院内政策首席副代表と祖国革新党のファン・ウンハ院内代表が8日、国会で「第22代国会検察改革立法戦略討論会」を開きました。民主党のパク・チャンデ院内代表や祖国革新党のチョ・グク代表も出席しました。討論者や両党の指導部は、第22代国会で検察改革法案を6カ月以内に迅速に処理すべきだという意見で一致しました。野党の検察改革法案は、検察の捜査権と起訴権を完全に切り離し、検察には起訴権だけを残し、捜査権は「重大犯罪捜査庁」(仮称)に渡す内容になる可能性が高いとみられています。文在寅(ムン・ジェイン)政権末期に民主党が検察の直接捜査権を「縮小」する検察庁法改正案を議決したが、尹錫悦政権が施行令でこれを形骸化させたためです。第22代国会では、尹錫悦大統領が拒否権を行使しても、与党「国民の力」から8人だけ離脱すれば、国会で再議決が可能です。第21代国会より検察改革を進められるよりよい環境が整いました。

 そろそろこの文を締めくくりたいと思います。歴代政権と検察の関係を見てみると、一編の大河ドラマを彷彿とさせます。当初、検察は軍出身の大統領の「法務参謀」の水準にとどまっていました。1987年の民主化以後、軍が退いた空白を埋め、核心的な統治機構として浮上しました。その後、前現職の大統領たちとパワーゲームを繰り広げながら力を蓄えていき、ついに大統領の座を飲み込んでしまいました。検察総長出身の大統領の誕生です。しかし、月満つれば則ち虧くものです。私たちは今、歴代大統領がいずれも失敗した検察改革を、かつて検察主義者だった検事出身の大統領が「完成」する巨大な逆説を目撃しているのかもしれません。皆さんはどう思われますか。

ソン・ハニョン政治部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )