マースクが高コストのグリーン・メタノール船をあえていま購入する理由──経営コンサルタントが解説

AI要約

マースクは、パートナーと地球のための配送ソリューションを開拓することを自社のパーパスに掲げ、先駆的なポジションを確立している。

マースクは脱炭素経営を推進し、気候変動問題への緊急対応を実現し、顧客のニーズに応えている。

マースクはESG目標を経営の意思決定に組み込み、環境にも財務にもメリットをもたらす施策を取る姿勢を示している。

マースクが高コストのグリーン・メタノール船をあえていま購入する理由──経営コンサルタントが解説

マースクは、「パートナーと地球のための配送ソリューションを開拓する」ことを自社のパーパスに掲げ、中長期の経営指針に落とし込んでいます。

サステナビリティ経営に関して、響きの良いステートメントを打ち出す企業は多いものの、2010年初頭からマースクの動向を注視してきた私は、同社がパーパスに沿った経営を進め、実際に先駆的なポジションを確立していると感じます。

今回の視察で垣間見えた彼らの脱炭素経営を5つのポイントに分けて見ていきましょう。

本社所在地:デンマーク

創立:1904年創業

事業内容:海運、フォワーダー業、コンテナ製造

マースクは、環境のための行動指針として「気候危機への緊急対応を実現し、運輸・物流部門のネットゼロ運営への転換にリーダーシップを発揮する」と定めています。

マースクは、気候変動問題への対策が一個人としての課題であると同時に、顧客のニーズであるとも認識しています。

マースクの顧客の多くは多国籍企業であり、彼らもまた必達の課題として脱炭素に取り組んでいます。事実、マースクの顧客の上位200社の4分の3は、独自に脱炭素化に向けて野心的な目標を定めています。

つまり、運輸のプロセスで脱炭素を推進することは顧客の要望に応えることにも直結するのです。

多くの企業はサステナビリティのために野心的な目標を掲げていますが、実行の段階に落とし込むのに苦戦しています。

その原因は、ESG目標が経営の意思決定の場面では同列に扱われていない点にあります。たとえば、基本的にはコスト上のパフォーマンスが高い施策を選び、もし選択肢に環境にとって良いものがあればそれを選ぶといったプロセスです。

縦軸が財務上のメリット、横軸にESGにおける効果として考えると、縦軸だけを基準に意思決定を下している企業はまだまだ多いのです。しかし、マースクはグラフ上でいう右上(ESGにおいても財務上においてもメリットをもたらす施策)しか採択しない姿勢をとっているわけです。

マースクでは経営幹部それぞれが、環境問題への対策に対して明確な責任を担っており、取り組みやその効果の説明義務を背負っています。2023年からは、ESGに対しての達成度が役員報酬にも反映されるような制度を導入しています。