「アルトマンは嘘をついていた」 OpenAIのCEO解任劇“主犯格”がアルトマンとの「激動の5日間」を暴露

AI要約

2023年11月、OpenAIの内紛でサム・アルトマンCEOが解任されるが、わずか5日後に復帰。解任の首謀者とされた取締役のヘレン・トナーに注目が集まる。

トナーが取締役会の決定に猛反発され、アルトマンの復帰が要求されるまでの混乱と、AI企業経営に対する世界的な議論の始まりを描く。

トナーがアルトマンの解任を決断した理由や、その後の経緯について、内部告発や不正の疑惑が浮上した様子を描く。

「アルトマンは嘘をついていた」 OpenAIのCEO解任劇“主犯格”がアルトマンとの「激動の5日間」を暴露

2023年11月、OpenAIはサム・アルトマンCEOの解任を突然発表し、世界を驚かせた。だがわずか5日後、アルトマンは元の地位に返り咲く。この内紛で批判の矢面に立たされたのは、首謀者と目された取締役のヘレン・トナーだった。

トナーはその後、一連の騒動に対して固く口を閉ざしていたが、英紙「フィナンシャル・タイムズ」の名物連載に登場し、当時の状況を語っている。

2023年11月17日(米国時間)、OpenAIの取締役だったヘレン・トナーらは、同社CEOサム・アルトマンの解任を発表した。

OpenAIは、世界で最も知られたAI企業だ。トナーと他3人の取締役は、アルトマン解任の理由を「我々に対する率直さを欠いた」からだと説明したが、詳細は明かさなかった。

それから時価総額860億ドル(約12兆4200億円)企業が空中分解する危機の渦中に立たされたトナーは、シリコンバレーの伝説的な起業家へのクーデターの“首謀者”として注目される。

OpenAIの混乱は5日間続いた。同社の有力な投資家や支援者、従業員は取締役会の決定に猛反発し、アルトマンの復帰を強く要求。クーデターチームのひとりがアルトマン側に寝返ると、取締役会もそれに倣った。アルトマンはCEOに復帰し、トナーは辞任に追い込まれた。

この騒動は単なる人間同士の衝突にとどまらず、人類史上最も影響力のある発明の管理をテック起業家に一任してよいのかという議論を世界中に巻き起こすことになる。

トナー(32)は、ロンドンにある四川料理レストランの奥の席に座っていた。その風貌からは、彼女がかつて引き起こした混乱の片鱗はみじんも感じられない。黒の無地のTシャツを着て、耳にはエメラルドのスタッズピアス。ウェーブがかったショートヘアは後ろにまとめている。

このオーストラリア出身のエンジニアが、アルトマンにとってのネメシス(ギリシア神話の女神で、度を越した繁栄や高慢などに天罰を下した)だったとはとても思えない。

OpenAIを退いた後、トナーはアルトマン解任劇について固く口を閉ざしてきた。多くの人にとって、彼女は謎めいた人物のままだ。

アルトマンを辞めさせるという決断にトナーを駆り立てたものは何だったのか。彼女はジャスミンティーを飲みながら言う。

「この目で見てわかったのは、OpenAIのような組織でガバナンスがうまく機能するとはとても思えないということです。権力やさまざまなインセンティブの圧力に、企業が耐える方法を考えなければならないと感じました」

人として、リーダーとして、アルトマンをどう思うかと尋ねると、「彼はフレンドリーな人で、私たちは友好的な関係でした」とトナーは答える。

トナーにはまだOpenAIに対する守秘義務があり、話せることは限られている。だが5月にリリースされたポッドキャスト「Ted AI Show」に出演したトナーは、アルトマンが同社の安全性について何度も取締役会を欺いたと主張した。

アルトマンは社内で進行中のプロジェクトについて故意に不正確な報告をし、ときには取締役会に対し明らかな嘘をついたという。

たとえば、アルトマンはChatGPTのリリースを取締役会に伝えていなかったとトナーは言う。そのため、彼女を含む取締役メンバーはX(旧ツイッター)でその事実を知った。

さらに彼は同社が運営するAI関連企業の投資ファンド「OpenAI スタートアップファンド」を保有していたが、にもかかわらず、「自分は会社に対して財務上の利害関係を持たない、取締役会の構成員」だと主張していた。彼は2024年4月、同ファンドから身を引いている。

アルトマン解任劇が起こる以前、OpenAIの事業のリスクは低く、干渉する必要はないとトナーは考えていた。だが後に、彼女は自分が間違っていると感じた。

「彼らがやっていることは、自社のみならず世界にとっても非常に高いリスクをはらんでおり、取締役会は重要な役割を担っていると気づいたのです」(続く)

アルトマンへの不信感は募る一方で、トナーはついに彼の解任を他の取締役メンバーと検討しはじめる。だが、そこで彼女は思わぬ裏切りにあう。後編では、当時アルトマンを擁護するような論調が目立った社内クーデターの裏側で何が起きていたのかをトナーが語る。