愛らしく哀れみ誘う......そんなロバの印象を一変させた恐怖体験

AI要約

イギリス国民の間で愛らしく従順とされるロバについての一般的なイメージとは異なり、作者は敵意を持つロバとの出会いを経験する。

作者が野原でロバに20分間足止めされる恐怖体験を通じて、ロバの本性に気づく。

ロバとの対面で注意すべき点や、不安定な状況下での対応について述べられている。

愛らしく哀れみ誘う......そんなロバの印象を一変させた恐怖体験

ロバは愛らしくて従順な動物だというのがイギリス国民の圧倒的な意見だ。多くの人々のこうした見解は、子供の頃に海辺でロバの乗馬体験をした思い出から形作られている。【コリン・ジョイス(本誌コラムニスト)】

さらに言えば、これらの海辺のロバは昔は飼い主に搾取されていたこともよく知られている。一日中太った子供たちを背に乗せられ、ひどい小屋で飼育され、カネを稼げなくなると追い出される。そのため、多くのロバ保護の慈善団体があり、後悔の念に駆られた高齢のイギリス人がよく寄付をしている。

僕は子供の頃ロバに乗ったことは一度もないが、基本的には世間一般の見方とずっと同じだった。ロバは良い動物で、人間の良き友だ、と。

でも先日、僕は初めてロバに遭遇し、本当に目からうろこの体験をした。僕にとっては「恐怖体験」と言っていいのだろうが、他の人から見れば「滑稽」かもしれないことも分かっている。

大筋で言うと、僕は敵意に満ちたロバに20分間も野原で足止めされた。大声でいななきながら突進してくるロバは、海辺の絵葉書のロバや、寄付募集の広告で寂し気な目を向けて来るロバよりも、かなりかわいくない。

そのロバに出会ったのは公共の歩道だったので、野原を横切って歩くのは権利的に問題ないはずだった。牛の群れが草を食んでいるのに気づいたが、牛たちは穏やかで僕を邪魔だと感じている様子もなかった。でも、遠くから1頭の子牛が僕をじっと見つめているように見えた。するとその子牛は、安全な群れの中に引っ込む代わりに(普通なら子牛はそうするものだが)、僕のほうに向かって歩き出し、次いで走り寄ってきた。そのとき僕は、それが子牛と言うよりはあまりに「ロバっぽい形」であることに気付いた。

率直に言って、この展開には心の準備をしていなかった。けたたましいいななき声は、僕から理性的な思考を奪った。でもロバが僕に到達するまでの数秒の間に、ロバから逃げて200メートル後ろの踏み段にたどり着くのは無理だと計算した。そして、反撃するのは良い考えではないと直感した(「威嚇して有利に立て」方式だ)。

■何度も腹を押し、地面を踏みつけ......

近くに柵があったので、またげるかもしれないと思ったが、近付くと有刺鉄線で覆われていた。そこで僕は、有刺鉄線で「確実に」けがするのよりも、ロバとの「不確実な」対面を選んだ(有刺鉄線に絡まった挙句にロバの容易な餌食になれば、両方のリスクを負う可能性もあった)。幸いなことに、ロバは僕に突っ込んでくるのではなく近付くにつれて減速し、立ち止まった。

それはにらみ合いだった。僕は行き場がなく、ロバは明らかに僕の存在をお気に召していなかった。ロバが何度も僕の腹を押し、地面を踏みつけ、「じろじろ見つめる」(頭を左右に振っては左目でにらみ、右目でにらむ)間に、僕はロバにどんなふうに痛めつけられるのだろうかと想像する時間がたっぷりあった。

ロバが「ただフレンドリー」ではなかったことは、言及しておく価値がある。けたたましい鳴き声は「縄張り意識」の表れで、彼が僕と仲良くするためだけに近付いてきたわけではないことを示している。だからなでたりしようとしなかったのは正解だったし、僕が優しい声で話しかけたのも役立ったかもしれない(無意味だったかもしれないが、悪意はないからね、と話しかけてみた)。

いつ噛まれてもおかしくないと思ったので、せめてTシャツではなく長袖を着ていればよかったと思った。ロバの歯が大きくてあごは強靭そうなのが見て取れた。ロバは後ろ脚で人を蹴るという話しか聞いたことがなかったから、蹴られることはないだろうと(間違って)考えた。