プーチンのメンツ潰すのには成功したが…ウクライナの「越境攻撃」という大きな賭け、無謀さが徐々に露わに

AI要約

ウクライナがロシア領に越境攻撃を行い、1294km2の領土を占領し、100人以上を捕虜にする事態が発生している。

越境攻撃の目的は、ロシア軍の勢力分散や長射程兵器の使用許可を得ることなどが検討されているが、目的は十分に達成されていない。

今後の展開に注目が集まっており、ウクライナの西側から供与された武器など、各国の関与も複雑化している。

 (舛添 要一:国際政治学者)

 8月6日、ウクライナは、スムイ州からロシアのクルスク州への越境攻撃を行った。その結果、ウクライナ軍総司令官によれば、既に1294km2

(東京23区の約2倍に相当)、100集落を占領し、594人を捕虜にしたという。この地域から20万人の住民が避難している。 この越境攻撃の目的は何か、そしてその目的は達成されているのか。ウクライナ軍占領地域の40km先にはクルスク原子力発電所があり、8月27日にはIAEAのグロッシ事務局長が視察したが、原発事故も懸念されている。

■ 軍事的目的

 軍事的な目的は、ロシア軍の勢力を分散させることである。ウクライナ領で戦っているロシア軍の一部は、占領されたクルスク州奪還のために転戦することになる。それは、ドンバスにおけるロシア軍の攻勢を弱めることにつながる。

 しかし、その狙いは外れている。ロシア軍はクルスク州奪還のためには、本土から僅かな部隊を割いたのみで、逆にドネツク州で攻勢を強め、交通の要衝であるポクロウシクを奪取する作戦を開始した。

 ウクライナ軍は、越境攻撃に1万人を超える精鋭部隊を投入しており、その分、本土防衛が手薄になっている。

 越境攻撃に対する報復として、ロシア軍は、首都キーウなどの諸都市、発電所などのエネルギー施設をドローンやミサイルで攻撃している。

 因みに、越境攻撃によって捕虜となったロシア兵115人と、同数のウクライナ兵の捕虜が交換で解放されたことは一つの成果である。

■ 長射程兵器の使用制限を緩和してもらう狙い? 

 越境攻撃のもう一つの狙いは、西側から供与された長射程兵器のロシア領内での使用許可を得ることである。戦争のエスカレーションを危惧するNATOは、その使用を固く禁じている。そこで、射程の短い兵器だとロシア領内に侵攻してから使わないと効果が無いということを強調するために、ウクライナ軍が侵攻したというわけである。

 イギリスが供与した射程250kmの長距離巡航ミサイル、ストームシャドーの使用を求めているが、NATOは認めていない。ただ、今回の越境攻撃ではイギリスの主力戦車チャレンジャー2が使用され、セイム川の3つの橋はアメリカ製の高機動ロケット砲システムHIMARSで破壊されたという。

 しかし、西側から供与された武器をロシア領内で制限なしに使うというウクライナの希望はまだ叶えられそうもない。

 ウクライナでは、NATOから供与されたF16戦闘機を使っての防衛体制の強化が進んでおり、ロシアのミサイルやドローンを撃墜しているという。