犠牲者115人「大韓航空機爆破事件」の実行犯・金賢姫の供述で明らかになった北朝鮮の悪行

AI要約

バブル経済下の日本と韓国の民主化運動の対比。韓国では民主化運動が盛り上がり、大韓航空機爆破事件で混乱が広がる。

大韓航空858便の爆破テロの容疑者として浮上した2人の日本人に関する証拠解明の過程。

テロ容疑者「蜂谷真由美」が韓国に護送された時の状況や報道の様子。

 (フォトグラファー:橋本 昇)

■ バブルに浮かれはじめた日本にも衝撃

 1987年(昭和62年)、バブル経済に突入した日本で我々が何とはなく浮かれていた頃、お隣の韓国では民主化運動がピークを迎えていた。長く続いた軍事政権下で押さえつけられていた人々が立ち上がったのだ。

 学生が始めたデモは一般市民100万人が参加するデモへと広がっていった。時の政権は苦悩した。韓国は翌年に念願のオリンピック開催を控えているが、1980年に起きた光州事件の時のように軍が出動すればオリンピック開催権を剝奪されてしまう。もはや弾圧によって政権を維持することはできなかった。

 苦悩の末、与党の次期大統領候補である盧泰愚は6月29日に民主化宣言を発表した。この突然の民主化宣言には大統領選出の公正性も盛り込まれていた。

 こうして韓国は民主的な大統領選挙へと動き出した。大統領選挙では与党の盧泰愚、野党の金泳三、金大中の3人が鎬を削っていたが、当時現地で選挙戦を取材していて驚いたのは、その派手なパフォーマンスだった。歌あり手振りありと、韓国の選挙はとにかく賑やかだ。自分たちで勝ち取った民主主義に明るい未来を託そうと皆が明るい顔をしていた。

 結局、この選挙では野党の票が割れて盧泰愚が勝利したのだが、そんな選挙戦の最中の11月29日にどえらい事件が起こった。大韓航空機爆破事件である。

 中東からソウルに向かっていた大韓航空858便が突如として消息を絶ったのだ。乗客乗員合わせて115名、乗客のほとんどは中東への出稼ぎから帰国する韓国人だったという。

■ 「蜂谷真一」と「蜂谷真由美」

 当初は何らかの原因による墜落事故かと思われたが、墜落前に当該機から降りた不審な男女2人連れの存在が浮かび上がるや事態は一気に変わっていった。2人は身柄を拘束されて服毒自殺を図った。ただ男は死んだが、女は生き残ったという。

 2人は日本人の父と娘だと名乗り日本のパスポートを持っていたが、それが偽造パスポートであることも分かった。858便の墜落は爆破テロの疑いが濃厚になった。

 その2人の名前「蜂谷真一」と「蜂谷真由美」が大きく報じられると、韓国はもちろん日本でも大騒ぎとなった。

 2人の正体は?  誰が何のためにテロを計画したのか?  北朝鮮の関与が疑われたが、生き残った女は口を割らない。真相究明に注目が集まる中、色々な憶測も流れた。

 その自称「蜂谷真由美」が韓国に護送されて来たのは、大統領選挙の投票日が翌日に迫った12月15日のことだった。大統領選挙の取材に飛び回っていたカメラマンたちもその日は金浦空港に詰めかけ、到着を待ち構えた。

 特別便が到着し、安全企画部の男女に両方から抱えられて「蜂谷真由美」はタラップを降りてきた。その憔悴した姿はとてもテロの実行犯とは思えないほど弱々しく、自殺防止のために付けられたマウスピースが痛々しいという印象を与えた。

 隣に陣取っていたカメラマンが「美人だなあ」と呟いていた。確かに「蜂谷真由美」はどう見ても「普通のお嬢さん」という感じだった。