トップアスリートのADHD率は高いが、ADHDは彼らのパフォーマンスにどう影響するのか?

AI要約

ADHDを持つエリートアスリートが多く、その特性がスポーツパフォーマンスにプラスの影響を与えることが多い。

ADHDの特徴がトレーニングや競技に適している一方、プロスポーツの環境はニューロダイバーシティへの理解とサポートに課題がある。

エリートアスリートの中には、ADHDをスーパーパワーとして活かす選手もおり、その特性が革新的かつ大胆なパフォーマンスにつながることもある。

トップアスリートのADHD率は高いが、ADHDは彼らのパフォーマンスにどう影響するのか?

体操のシモーネ・バイルズ、競泳のマイケル・フェルプスなど、ADHD(注意欠陥多動性障害)を公言しているエリートアスリートは少なくない。

子供の頃に診断された選手もいれば、つい最近まで「自身がADHDだとは知らなかった」という選手もいる。

東京オリンピックの女子マラソンの銅メダリスト、モリー・セイデル(29)が、その兆候に気づいたのは2022年頃だという。

「もし子供の頃にADHDと診断されて、すぐに薬を飲んでいたら、オリンピック選手にはなれなかったと思う」

というのも、彼女にとっては「振り返れば、スポーツが薬」のように機能していたからだと、米誌「ウィメンズヘルス」に語っている。

同誌によれば、ADHDの人は「体を動かすことで興奮した心を落ち着かせられる」と感じる傾向があるという。

たとえば、小学6年生のときにADHDと診断されたフェルプスは「泳いでいるときに、初めて自分をコントロールできている感覚を得た」と、著書のなかで語っている。

ある研究によると、エリートアスリートの間では、一般の成人に比べてADHDの有病率が高いことが示唆されている。一般成人の間では約2.5%であるのに対し、大学生やエリートアスリートの間では「少なくとも8%の可能性がある」という。

ただ多くの研究では、自身の症状に対して薬を服用している人のみが対象となっているため、スポーツ選手の実際の割合はさらに高くなる可能性があるという。

同誌によれば、一部のアスリートにとっては「ADHDがスーパーパワーとして機能している」ようだ。

ADHDの特徴のひとつである「ハイバーアクティブ(多動)」は、そのあふれるエネルギーを激しいトレーニングや競技に注ぎ込むことで、パフォーマンスの向上に繋がることがある。それは瞬発性の高いスポーツだけでなく、マラソンなどの長時間の過酷な身体活動を維持するのにも役立つという。

また、興味のあるタスクに過度に集中するという特性も、気を散らすものをブロックするのに役立っている可能性がある。

前述のセイデルは、トレーニング期間中の「私の生活は、走る準備をしているか、走っているかのどちらか」だったと語っている。「そんな生活はほとんどの人にとって地獄かもしれないけれど、私にとってはまったく苦痛ではありませんでした」。なぜなら、集中しているとき「私は他にやりたいことは特にないから」。

ADHDの人は、構造的かつ反復的なルーチンを好む、もしくは必要とすることが多く、この特性が「練習をコツコツと継続的に積み上げる」というスポーツにおけるハイパフォーマンスに欠かせない要素と、非常に相性が良いことを指摘する専門家もいる。

さらに、ADHDの脳の「衝動性や迅速な意思決定をおこなう傾向」もアスリートに利益をもたらす可能性があると、精神科医ミミ・ウィンズバーグは同誌に語っている。

この傾向は「注意欠陥」と言われることもあるが、それは「選択的注意」(複数の刺激が同時に発生した場合に、目的に沿った情報やタスクに集中し、他の無関係な刺激や情報を無視する傾向)だと彼女は述べている。

この迅速な意思決定をする際には「積極的にリスクを取る」傾向もみられ、それがスポーツで、たとえば、多くの人が避けるかもしれない新しいテクニックや戦略を試すことで、革新的かつ大胆なパフォーマンスにつながる可能性がある。

他にも、ADHDならではの集中力や選択的注意により、「高いストレスやプレッシャー下でも成長できる」傾向もあるという。

とはいえ、プロスポーツの環境は、ADHDなどニューロダイバーシティへの理解とサポートがいまだ不足している。多様なアスリートの成長を支援するためにも、コーチやスポーツ団体、スポンサーらが、より包括的な環境を作り出すことが求められている。