テロ懸念もパリはお祭りムード 駐仏大使「スリひったくりに注意を」

AI要約

パリ・オリンピックの盛り上がりや警備の様子、観戦時の注意点、日本の関わりなどが紹介されています。

100年ぶりのパリ五輪は街中が開催ムードに包まれる中、テロやスリ被害への懸念や総選挙の影響などがある。

パリ五輪が人々の価値観や街の変化をもたらし、環境への配慮がテーマとして浮上している。

テロ懸念もパリはお祭りムード 駐仏大使「スリひったくりに注意を」

 100年ぶり3度目の開催となるパリ・オリンピック。テロへの懸念から厳重な警備が報じられるが、外務省によると、夏季五輪という大イベントを除いても、近年のフランスには全土で約3万6000人、パリだけでも約1万人の邦人が滞在している。五輪の観戦客を含め、邦人の安全を担う下川真樹太(まきた)・駐仏大使に、現地観戦時の注意点などを尋ねた。

 ――五輪が開会します。パリの雰囲気の変化を教えてください。

 ◆1年ほど前は、さほど熱気を感じませんでしたが、国内で聖火リレーが始まってから盛り上がっています。パリ五輪は街の史跡などを会場にする「広く開かれた大会」です。7月からはパリ市街に競技の仮設スタンドもできて、まさに「お祭り」状態です。

 セーヌ川にかかる橋が警備の問題から閉鎖されて交通の便が悪くなったり、川沿いの露店が撤去されそうになったりもしましたが、市民は総じて歓迎ムードだと感じます。実際、6~7割の市民が開催を支持しているという調査結果があります。

 ――開催にあたり、不安な点はありますか。

 ◆テロへの懸念があります。中東情勢などが緊迫していて、フランス政府もテロ対策に懸命です。屋外で不審なドローンにどう対処するか、群衆で人が折り重なって倒れてしまうような雑踏事故をいかに防ぐかといった検討もなされているようです。

 テロも怖いのですが、現地観戦される方の場合、スリやひったくりの被害が最も懸念されます。地下鉄やバスといった公共交通機関を利用する際は、特に混雑時に注意が必要です。また、7日に実施されたフランスの総選挙では左派連合が議席を伸ばして第1党になりました。国内政治は五輪期間中は「政治休戦」にあたるものの、流動的な状態です。

 デモなどに遭遇した場合は、近づかないほうがよいでしょう。開会式が行われるセーヌ川周辺はおそらく混雑すると思われますので、雑踏事故などの危険が伴います。大使館では、五輪用にトラブルの解決方法や連絡先をまとめた「安全リーフレット」を作製し、配布しています。インターネット(https://www.fr.emb-japan.go.jp/itpr_ja/13001.html)で配布しているので、現地観戦する人は、利用してください。

 ――パリ五輪に日本はどのように関わっているのでしょうか。

 ◆環境への配慮は今大会の主要テーマの一つです。パリでは自転車道が盛んに作られるなどしていますが、現地では大会関係車両として日本の環境に優しい車が多く利用されています。

 また、日本の代表選手による国際交流がフランス国内で活発に行われています。フランスでも人気の柔道は選手との交流が盛んに行われ、新競技・ブレイキンの日本人選手も南仏で合宿して市民にダンスの手ほどきをしました。

 2021年の東京五輪時には国内の各自治体がホストとして選手を受け入れる予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で交流が進みませんでした。

 パリ五輪は、厳しい状況で五輪をやらざるを得なかった日本からバトンを引き継ぎ、そうしたイベントがフランスの各地で行われています。

 ――五輪に何を期待しますか。

 ◆人々の価値観が変わる、街が変わる。五輪はそのような契機になると思います。100年前のパリ五輪(1924年)は、第一次世界大戦終了後の復興と繁栄を世界と共有する場でした。近年ではバルセロナ五輪(92年)をきっかけに、開催地が国際都市として世界的に知られ、繁栄するようになりました。

 大きな交通規制などを伴いながら、街中を作り替えて競技会場にしているパリ五輪は、日本ではできないダイナミックな取り組みだと思います。環境志向の新たな価値を持つ都市がどこまで作れるのか、注目しています。【聞き手・黒川晋史】

 ◇下川真樹太(しもかわ・まきた)

 1961年生まれ。大阪府出身。東京大法学部を卒業後、84年に外務省入省。98年に在仏大使館1等書記官。大臣官房長、ベルギー大使などを歴任し、2022年からフランス大使。