【社説】バイデン氏撤退 冷静な政策論争取り戻せ

AI要約

バイデン大統領が再選を目指すことを諦め、後継候補を指名する決断をした。次期大統領選挙に向けて、民主党はハリス副大統領を支持する方向で結束を固めていくことが求められる。

トランプ前大統領はバイデン氏の撤退を批判し、自身の強いリーダー像をアピールしている。今後の政策論争で、大統領に相応しい人物であることを示すことが重要だ。

現職大統領の撤退は異例の事態であり、冷静な選挙運動を行うための機会と捉えられている。

【社説】バイデン氏撤退 冷静な政策論争取り戻せ

 11月の米大統領選で再選を目指していた民主党のバイデン大統領の撤退は、やむを得ない決断だろう。

 民主党は早急に後継候補を決め、共和党のトランプ前大統領と政策本位の冷静な選挙戦を展開してほしい。

 81歳のバイデン氏の高齢不安が再燃したのは6月下旬、トランプ氏とのテレビ討論会だった。声がかすれ、何度か言い間違えて精彩を欠き、民主党内で候補者交代を求める声が高まった。

 認知能力の低下といった懸念は今に始まったことではない。前回2020年の大統領選でも、高齢はバイデン氏にとって最大の弱点だった。

 米大統領は核戦争を命じることができる「核のボタン」を持つ。日々刻々と変化する世界情勢に対し、重大な決断をしなくてはならないリーダーの一人である。

 高齢が再選の支障になり得ることは、本人はもちろん、民主党の首脳陣も分かっていたはずだ。

 バイデン氏はX(旧ツイッター)への投稿で「身を引いて大統領の残り任期に専念することが、民主党や米国にとって最善だと考えた」と表明した。遅きに失した感はあるが、名誉ある撤退とも言えるだろう。

 3カ月半後に迫る大統領選に向け、バイデン氏は後継候補としてハリス副大統領を支持すると発表した。

 ハリス氏は59歳で、米国初の女性、黒人、アジア系の副大統領だ。女性の昇進を阻む「ガラスの天井」を打破することが期待されている。

 バイデン政権では、人工妊娠中絶を積極的に擁護する発言が注目された。その半面、担当した移民政策をはじめ国民の関心が高い分野で芳しい成果を残していない。最近の各種世論調査では支持率が40%を下回る。

 民主党の新たな候補選びはハリス氏を軸に展開される。公約作りと併せ、バイデン氏撤退の是非を巡って意見が割れた党内の結束強化も喫緊の課題となろう。

 現職大統領が再選を諦めて撤退するのは異例の事態だ。これを落ち着いた選挙戦に転じるきっかけとしたい。

 バイデン氏の撤退表明を受け、トランプ氏は早速、交流サイト(SNS)への投稿で「ペテン師のバイデンは米国史上、群を抜いて最悪の大統領だ」と非難した。

 今月中旬の銃撃事件で負傷した直後、共和党の候補者指名受諾演説では国民に団結を呼びかけたが、分断と対立をあおる言動に戻った。

 バイデン氏を「老いぼれ」「知能指数(IQ)が低い」と口汚くののしった高齢批判は今後、78歳の自身に向けられる鋭いやいばとなる。

 トランプ氏は命を狙われても屈しない強いリーダー像をアピールし、勢いに乗る。大統領にふさわしい人物であることはイメージだけでなく、民主党候補との政策論争で証明してもらいたい。