岩盤支持層への依存脱せず トランプ氏、党派色鮮明 「団結」訴えもすぐに変調・米〔深層探訪〕

AI要約

トランプ前米大統領は共和党大統領候補指名受諾演説で団結を唱えたが、民主党批判を展開。暗殺未遂事件後、初めての演説で態度の変化も指摘されたが、結局は敵味方を分け、岩盤支持層を熱狂させるスタイルが変わらず。

共和党団結が強まり、反対派は声を失い、トランプ支持が広がる中、民主党は内紛が激化し、バイデン大統領の選挙戦に不安が高まる。トランプ氏の全国支持率は上昇し、民主党の機運は盛り上がらない。

大統領選の行方は依然不透明で、暗殺未遂事件が影響を与える可能性もある。

 トランプ前米大統領は18日、共和党大統領候補の指名受諾演説で、冒頭こそ「全国民の大統領になる」と団結を唱えたものの、その後は普段通りの民主党批判を展開した。13日の暗殺未遂事件後、初めての演壇。死と隣り合わせの体験を経て態度の変化も指摘されていたが、敵味方を分け、岩盤支持層を熱狂させるスタイルは不変だった。

 ◇「魔女狩り」批判再び

 人気プロレスラーやロックミュージシャンの華々しいパフォーマンス。いつもの入場曲「ゴッド・ブレス・ザ・USA」の生演奏とともに舞台の幕が上がると、光り輝く「TRUMP」の文字を背景に、前大統領は姿を現した。銃撃で負傷した右耳は、まだ白いガーゼで覆われている。

 派手な演出とは対照的に、演説は静かな調子で始まった。「私は今夜、ここにいるはずではなかった」。人種や宗教を超えた「新時代」をスタートさせると語り、分断が極まる社会の融和を約束した。

 だが、演説はすぐに変調する。「党派的な魔女狩りを終わりにし、国民にふさわしい選挙を進めるべきだ」。2020年大統領選の敗北を覆そうとした罪などで起訴されたトランプ氏が、米政治史に汚点を残した連邦議会襲撃事件を招いた自身の言動を省みることはなかった。この後は移民を「犯罪者」とあおる「トランプ節」が復活し、聴衆は喝采した。

 ◇生還の「奇跡」、反対派声失う

 事件後、共和党の団結はかつてないほど強まっている。指名レースでトランプ氏に挑戦したヘイリー元国連大使は「強力な支持」を表明。党内の「反トランプ派」は声を失い、トランプ氏を脅かす存在はなくなった。

 大会に参加したウィスコンシン州の広告業マックスさん(22)は、「友人や兄弟が『トランプのために初めて投票に行く』と話している」と明かした。銃撃からの生還という「奇跡」は、政治に関心の薄い若い世代の注目も集めている。

 対する民主党は、高齢不安が高まるバイデン大統領の選挙戦継続を巡って内紛が激化。共和党大会中も、民主党重鎮らが撤退論を唱えているとする報道が相次ぎ、「打倒トランプ」でまとまる機運は生まれていない。

 CBSテレビが銃撃事件後の16~18日に実施した世論調査では、トランプ氏の全国支持率は52%、バイデン氏は47%となった。トランプ氏のリードは7月調査の2ポイントから5ポイントに広がった。

 ただ、激戦7州に限れば差は3ポイントにとどまる。歴史に残る暗殺未遂事件が大統領選の行方を決定付けたと断じるのは早計だ。(ミルウォーキー=米ウィスコンシン州=時事)